いつか背を押すものになれれば。
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「人を呪わば穴二つ、情けは人のためならず」
なぜ、と問いかけた自分に、彼はそんな諺を口にして、笑った。
「他人を陥れるなら自分も土に埋まる覚悟でやれ、他人を救うのならそれは巡って自分のためになるからだと思え。……まあ、解釈はひとによるだろうが、私は概ね、この意識で生きていてね」
「……つまり?」
「私のした謀については私が責任を負うものであるし、貴方に少し手を貸したのも打算からだ、と思ってもらっていい」
「なにそれ」
思わず、つっけんどんな、食ってかかるような物言いをしてしまう。
「心配も感謝も要らないって話?」
「どちらも無理にするものではないな」
喧嘩腰なこちらの言葉を気にした風もなく、肯定して、まるで聞き分けの悪いこどもをなだめるように、続ける。
「貰えるものを片端から断っている訳ではないがね。今回に関しては、別段、貴方からの謝意や心遣いを期待してのものではないよ。何か返さなければと考えているなら、無理はせずともいい」
「……なに、それ」
繰り返した声は、それでも少し勢いが弱くて。
……勝手に救って、それでおしまいでいいなんて。
ずるい、と思ったのだ。
そんなのは都合がよすぎて、納得がいかない。
「やれ、要らぬと言っているのだからそのまま受け止めてもいいだろうに」
難儀だね、と今度は可笑しそうに微笑んで、ひとを勝手に救ってくれたそのひとは、言った。
「そうであるなら、強くなりなさい。……いつか、私が『貸しを作っておいて助かった』と言うかもしれないよ」
「なにそれ」
今度は自分も、少し笑う。気の長い話だし、そんな風に言われる自分も、そんなことを言う相手も、まだ想像はつかなかったから。
……いつかのそんな会話を、思い出す。あれは彼なりの激励で、たぶん祈りだったんだろうと、今はそう感じていた。
助けを求めることすら諦め、手を伸ばす勇気すらなかったこどもが、いつか自分で歩き出し、誰かへその手を差し伸べられるようになれ、と。
香月。香籠。……ほんとうは名前すら定かではなかった、遠い貴方。少しは私も、貴方がなにかを期待するに足るものにはなれただろうか。
ねえ、噂くらいは聞いている?
あの風流が、今じゃ奇跡屋の代名詞だなんて言われててさ。
――貸しを作るなんてほどには、まだなれなくとも。
せめて助けた甲斐はあったと、そのくらいには思ってくれるならいいんだけど。