gottaNi ver 1.1

 名前のない世界、遍在し点在する場所に、その《ライブラリ》は在る。あるいは、その《ライブラリ》が世界として、在る。
 洋館、宮殿、塔、洞窟、温室、テラス、庭園、地下室、トンネル、廊下、天空、水底――あらゆる場所につながり、あらゆる場所から繋がり、あらゆる場所とつながった『それ』は、時には整然と本棚の並んだ図書館であり、時には読みかけの本ひとつを残して忘れられた小部屋であり、時にはページの切れ端を敷き詰めた花道であった。
 散らかった物語の破片を収めて、今日も《ライブラリ》は、誰かとつながる。
>> lib_fragments
うつらうつら、夢を見た。誰かの指先が踊っている。綴られゆく記述はよく見えない。
手が止まり、最後の点がひとつ置かれると、真新しい紙が舞い上がる。
ああこれは書架の始まり、迷宮の回想だ……あの手は指は、果たして何を語り紡いだのだろうか。とりとめない思いは紙吹雪に呑まれて溶けた。
 古めかしく仰々しい、厳めしく美しい扉。塗装は剥げ落ち錆を纏い、だが目を奪う精緻さだけは、時を経た今も一片の瑕疵さえない。
 蔵にしては華美、住まいにしては厳峻…そんな様相にいくらか気後れしながらも、新たな書架への道に対する好奇の思いには抗えない。仕方ない、それが『此処』だ。
 錆ひとつさえ損なってはいけない気がして、そっと、そうっと、指先から触れてゆく。取っ手のない構造に戸惑いながら、押すのか、引くのか、薄く力を加えながら探ってみると、不意に手に返ってきていた反発が消える。

 予兆は絶無、音一つなく……開こうとしていた扉の先に、抜け出していた。

 空、空、空。
 空(から)の空間に空(くう)と空(そら)がふわりと満たされ、空の部屋には、天井近い場所の格子窓から、光の彩虹が落ちている。
 ベルベットだろうか、乗せた足先がふわりと沈み込む床の感触に、思わず進めかけていた足を引き戻す。
 ……書架は、なかった。
 ただ、かつての名残か、書架としての意地か矜持か。
 降り積もる彩虹はつかの間、うっすらとした破片にいつらかの書の影を映してから、そうっと絨毯に受け止められては砕け、消えていく。

 ああ、どうしてこう──焦らすように、試すように、この場所はこうして彷徨う書痴に歯噛みをさせる。
>> leaves
笑う貴方はいつだって穏やかだ
そう評された控えめな微笑

全く同じ笑みを見て
ああこれは冷笑と失笑をごまかした笑いだな、と僕は苦笑した。
残されたチカラ、
そこに在るコトバ。
笑って手放す、
いつかの永遠。
>> dehyca_code
#術式言語 (仮)
発音が二通りある単語は基本的に「イ」の発音を《より強い》《明確な意志》の籠もる発音とする。
Lyは「りゅ」「り」、Deは「で」「でぃ」、esは「えす」「いす」のはず。
いずれにしても文字として綴られた際には区別されない。
Ly リ/リュ モノとしての『私』/意思としての『私』
De デ/ディ モノとしての『君』/意思としての『君』

es エス/イス 呼びかけ/命令

es De
[エス ディ]であれば「やぁ、君」程度、[イス デ]なら「おい、そこの」、[イス ディ]だと「ちょっとあんた」くらい、かなあ

es単体での使用は呼びかけ。したがって音は[エス]で、これは無視しても許されるレベルの「ねぇ」「ちょっといいかな」的な呼びかけとして使われる。

「es 固有名詞」は呼びかけの強さによって[エス]あるいは[イス]。
「呼び止める」意思が乗った場合は「止まれ」「こちらを見ろ」といった命令の意味合いが強まるので[イス]になる。

「es 動詞」であればほぼ命令なので発声は[イス]。
>> memolog
氏族 clan
 ……幻想地球系においては、同じ『神』から始まった信仰を保つ集団を、クラン、氏族、一族、などと呼ぶことが多い。
 ある山岳部の『羽持ち』……星読の神に連なる羽の一族、北の氏族──雪の神に愛される雪花石膏たち、などがそれだ。
 また、氏族のはじまりが神とは別のルーツに拠る場合もある。
†えっちゃんと梅枝
梅のほう的には「好き嫌いは置いといて、とりあえず機会が来ればコロス」くらいの意識。
えっちゃんとしては「思ったよりガチでアウトだったみたいだからそっとしておいてやろう」みたいな感じ。

梅のそれが単なる虚勢なら、えっちゃんは鼻で笑って、やってみろよ?って煽るとこなんだけど、奴はわりとガチンコでやる気なのです。ちょっと噛みつかれるくらいなら楽しむ得鳥羽月ですが、喉笛を噛み切る気でくる相手はちょっとノーセンキュー。
そんなこんなで、おもしろ半分に不意打ちで血を食わせたあとは、梅枝の確たる殺意を察してそっと距離を取っている得鳥羽月でした。
好き嫌いでいうと、わりと好きなやつだなコレ、と思っている。

梅枝も、不意打ちへのケジメとして「とりあえずコロス」と決めてはいるものの、好き好んで皇鬼に殴りかかるほどやけっぱちな訳ではないので、会わないならそれに越したことはないと思っている。
そして別に嫌いなわけでもないというか、好き嫌いを判断するほど知り合ってもいないしなあ、って思っている。

実力差からして、どれだけ好条件が揃っても、梅枝が得鳥羽月を葬るのは不可能だけども、そのくらいの気合いで仕掛ければ手傷は負わせてやれる、というくらい?
「死んでもいいから殺す気でやる。コロス。」な梅枝と、「さすがにそれは面倒くさい」なえっちゃんと。
>> ss
その人形は、いわゆる他界、幽冥の領域から、ふと現世の側へと落ちてきた。それはまったくの偶然で、ゆえにその先の出会いは不意のもの。
それが無二のものとなることも、また予見はできないことだった。

自律人形、とそれは己を定義している。しかし多くの所有者は、それが自らを律し動くものであることなど忘れて、所有し、支配し、そして破滅していった。
人形はそれをただ眺めてきた。望まれるままの『人形』として、ただ所有され、争奪され、貴重な骨董品のごとき扱いを受けながら。

例外となったのは、とある奇跡屋。生業に反して奇跡の何たるかにも無頓着なその新しい所有者は、人形の口にした説明を聞いて首を傾げ、笑った。
自らを律するものを所有しようとは、思わないと。
それから、奇妙な主従関係がしばし続くこととなる。所有者、と言われながら所有の自覚なく、同居人のように人形を扱う主人は、人形からのぞんざいな扱いにも笑うだけ。人形もまた人形らしからぬ、主体的な動きをするようになってゆく。

そうして、閟誕、そう名を与えられ、しかし名を呼ばれることのなかった人形は、とある奇跡屋のもとで真に生を得た。
今しばらく、人形はその名を尋ね呼んだ唯一の人間のもと、なげやりながらそれなりに楽しく、日々を過ごしていくだろう。
生まれ落ちてより幾年、童子は知らず知らず冷め切ってゆく己の心には気付かずにいた。
魔、戦う力なき民草を踏み荒らす、尋常ならざる敵対者……そう目される存在と、渡り合い、時に滅し合う、その役目に、己が疲弊し、鬱屈を溜めていると自覚したのは、もう更に幾らかの四季をまたいだ果てのこと。
少年となり、ほどなくして、その身に月宮の立場が負わされることとなったのは、当然の流れ。少年はまだこの時には、煩わしいばかりの重荷をまだ、己が果たさねばならぬ、当たり前の役割であるとしていた。
…削れ、疲弊し、磨耗していくその心に、気負いなく触れてくる相手もいるのだと知るまでは。

伝統、慣習、因業、保身。しがらみに飼い慣らされた世界で、しかし、少年に手を伸ばし、ねぎらい、そっと撫ぜていく指先があった。
その手が、なんの気紛れによって伸ばされるのか、なぜ自分だったのか……青年の域にさしかかり、ようやく答えまで辿り着いた時、彼、貴夜は── 因習の死を願った。

そうして、貴夜── 縛魔、と畏敬され呼ばれる血族の、もっとも尊ばれ畏怖されてきた月宮の末代となった彼は、己が役目と血族の歴史、すべてを終わらせることにした。
ああ、やはり『此処』には虫酸が走る、と凍てつく瞳に弧を描いた唇で、呟いて。
貴夜は正しく因習因業を破綻させ、微塵の憐憫もなく旧態に縋るものたちを追い落とした。それは縛魔という一族にもたらされた解放と瓦解。
── 縛魔は、潰える。そうして、ようやく……貴夜は、あの日の手を、掴んだ。一族の重ねてきた歪な歴史の、その最たる象徴とも言うべきその人の、手を。

……という感じでブツ切りの雑多なメモやネタをもりもり放り込んだライブラリです、もりもり増えます。