戻って入ってきた扉を開けると、廊下だった空間は夜のテラスへ置き換わっていた。
無人のテーブルにカンテラが一つ取り残されて、離れて置いてある書物をゆらゆら照らしている。その装丁はさっき届かず諦めた本によく似ていた。そっと触れる。
天鵞絨の表にタイトルはなかった。まあそれも、ここではよくあることだった。
崩れかけた書架の扉を押し開くと、潮騒に統べられた白と紺碧が眼前にあらわれた。途端にノブの感触は消え、扉はもう無い。
白い真砂は記述を待って忘れ去られた紙のようで、波が束の間、その白紙にしみを付けては消えてゆく。
海底には揺れる文字たちが見え──その遠さに吐息が零れた。
無人のテーブルにカンテラが一つ取り残されて、離れて置いてある書物をゆらゆら照らしている。その装丁はさっき届かず諦めた本によく似ていた。そっと触れる。
天鵞絨の表にタイトルはなかった。まあそれも、ここではよくあることだった。
崩れかけた書架の扉を押し開くと、潮騒に統べられた白と紺碧が眼前にあらわれた。途端にノブの感触は消え、扉はもう無い。
白い真砂は記述を待って忘れ去られた紙のようで、波が束の間、その白紙にしみを付けては消えてゆく。
海底には揺れる文字たちが見え──その遠さに吐息が零れた。