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青年は、正しく愛され、向けられた愛に相応しく育ち、また自身も自然に『家族』を愛した。幼い砌、なんの変哲もない穏やかな日々。だから今も、心は折れず歪まず、まだ微笑み、そして泣くことができる。愛していたのだ、たとえそれが泡沫の夢であると知っていても。
滅ぼすために生まれた。生きることは、畢竟、戦い、殺し続ける日々だった。それが禍鎮め。青年に与えられたその名と役目は、心など必要のない、壊れた人形のための獄。
けれど心を保ったまま、青年は遠く、遠く、その命を繋いだ。戦い、滅ぼし、失っても。家族、と呼べた懐かしい相手、親友であり、戦友であり、兄、姉、とも呼べた、彼らの面影さえ遠く記憶の果てへと埋めて。
睡月、とその名前を呼ぶものはもういない。それでも彼──最古となった縛魔の禍鎮め、狂わないが故に誰よりも異常なモノとして忌避される青年は、生きていた。狂うことのできなかった心を抱えて。
かつて結んだひとつの契約、そしていずれ繋がれるひとつの縁が、いつか彼を獄より放つだろう。
青年は魔の才に恵まれて生まれた。白銀の髪、薄青色の瞳。それは、あらゆる言葉を呪として機能させることができる、異能の徴(しるし)であり、同時に、当時の人の世界においては死すべき呪いの色でもあった。
吐き捨てる一言さえ、長大な呪文と等しい意味と効果を持つ、持たせることができる。術士として最高級の才能ともいえるその異能を、人々は恐れ、災いをもたらす忌まわしいものとして排斥してきた。
だから、彼にとって死は常に身近なものである。言霊の異能に付随する、身体の脆さもあった。何度となく血を吐き、地に伏せ、それでも彼が『青年』と呼ばれ得る外見になるまで、生を手放さなかったのは、生まれついて持つ、その才によるところが大きい。
皮肉にも、青年には魔の才があった。言霊など抜きにしても揺るぎない、術士としての適性、そして精神性と覚悟が。他者からの歪んだ認識を認めてはならない…己を公正に評価し認識する、それが術士としての根源的な、保たねばならない正しい在り方であるから、彼は突きつけられる否定に抗い続けた。
背律、と、彼を正しく知るものは呼ぶ。レイラ、R.A.Raylhaは、そうやって子供から少年になり、いくばくかの人間性と引き換えに才能を魔物じみた領域にまで引き上げて、少しの人間性を獲得し直しながら、青年へとたどり着いた。
いまはただ、静かに木陰で眠っている。