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青年は、正しく愛され、向けられた愛に相応しく育ち、また自身も自然に『家族』を愛した。幼い砌、なんの変哲もない穏やかな日々。だから今も、心は折れず歪まず、まだ微笑み、そして泣くことができる。愛していたのだ、たとえそれが泡沫の夢であると知っていても。
滅ぼすために生まれた。生きることは、畢竟、戦い、殺し続ける日々だった。それが禍鎮め。青年に与えられたその名と役目は、心など必要のない、壊れた人形のための獄。
けれど心を保ったまま、青年は遠く、遠く、その命を繋いだ。戦い、滅ぼし、失っても。家族、と呼べた懐かしい相手、親友であり、戦友であり、兄、姉、とも呼べた、彼らの面影さえ遠く記憶の果てへと埋めて。
睡月、とその名前を呼ぶものはもういない。それでも彼──最古となった縛魔の禍鎮め、狂わないが故に誰よりも異常なモノとして忌避される青年は、生きていた。狂うことのできなかった心を抱えて。
かつて結んだひとつの契約、そしていずれ繋がれるひとつの縁が、いつか彼を獄より放つだろう。
その人形は、いわゆる他界、幽冥の領域から、ふと現世の側へと落ちてきた。それはまったくの偶然で、ゆえにその先の出会いは不意のもの。
それが無二のものとなることも、また予見はできないことだった。
自律人形、とそれは己を定義している。しかし多くの所有者は、それが自らを律し動くものであることなど忘れて、所有し、支配し、そして破滅していった。
人形はそれをただ眺めてきた。望まれるままの『人形』として、ただ所有され、争奪され、貴重な骨董品のごとき扱いを受けながら。
例外となったのは、とある奇跡屋。生業に反して奇跡の何たるかにも無頓着なその新しい所有者は、人形の口にした説明を聞いて首を傾げ、笑った。
自らを律するものを所有しようとは、思わないと。
それから、奇妙な主従関係がしばし続くこととなる。所有者、と言われながら所有の自覚なく、同居人のように人形を扱う主人は、人形からのぞんざいな扱いにも笑うだけ。人形もまた人形らしからぬ、主体的な動きをするようになってゆく。
そうして、閟誕、そう名を与えられ、しかし名を呼ばれることのなかった人形は、とある奇跡屋のもとで真に生を得た。
今しばらく、人形はその名を尋ね呼んだ唯一の人間のもと、なげやりながらそれなりに楽しく、日々を過ごしていくだろう。