ひそりと、足取りに似た物音が耳をかすめて消えた。背表紙を辿るのに没頭していた思考が引き戻される。──気配が行き合いこそすれ、決して出会うことのない誰か。
ああ貴方もか、と知らぬ誰かに微笑んだ。
くる日もくる日も……狂うまで、我々はこの書痴の樹海をひとり彷徨い歩くのだろう。
雨音が林立する棚の隙間を渡る。いつの間に降り出したのだろうか。
視線を上げると、外は暗く、窓は流れ落ちる水をまとって波打つ暗幕のように揺れていた。
その揺らぎの中に刹那、書架を兼ねた木々の森が映る。だが駆け寄って伸ばした指にはただ、硝子の冷たさと雨粒の振動が触れるばかり。
見えども到れぬ書庫の樹海、新たな断章の宝庫にまた行き損なったことを理解して、ため息とともに机へ戻る。
ついさっきまで読み進めていた紙片がそこから消えている現実に直面し、いっそうの落胆に襲われるのは、直後のこと。
ああ、本当に、ここでは何一つ確かなものなどないのだろう。
ああ貴方もか、と知らぬ誰かに微笑んだ。
くる日もくる日も……狂うまで、我々はこの書痴の樹海をひとり彷徨い歩くのだろう。
雨音が林立する棚の隙間を渡る。いつの間に降り出したのだろうか。
視線を上げると、外は暗く、窓は流れ落ちる水をまとって波打つ暗幕のように揺れていた。
その揺らぎの中に刹那、書架を兼ねた木々の森が映る。だが駆け寄って伸ばした指にはただ、硝子の冷たさと雨粒の振動が触れるばかり。
見えども到れぬ書庫の樹海、新たな断章の宝庫にまた行き損なったことを理解して、ため息とともに机へ戻る。
ついさっきまで読み進めていた紙片がそこから消えている現実に直面し、いっそうの落胆に襲われるのは、直後のこと。
ああ、本当に、ここでは何一つ確かなものなどないのだろう。