崩れかけた書架の扉を押し開くと、潮騒に統べられた白と紺碧が眼前にあらわれた。途端にノブの感触は消え、扉はもう無い。
白い真砂は記述を待って忘れ去られた紙のようで、波が束の間、その白紙にしみを付けては消えてゆく。
海底には揺れる文字たちが見え──その遠さに吐息が零れた。
薄く朝日を透かした硝子の先から、遠く何かの鳥が鳴く。昼も夜もなく断章を追い、語られず散逸した世界の名残を追う日々にも、時折こうして朝はくるのだった。
まだ少しぼやける目であたりを見やれば、簡素な寝台はそのままに、見覚えのない華奢なテーブルがひとつ部屋に増えている。置かれているのは軽く焼き目の付いたパンとティーポット。
書痴の亡霊となってから、はて幾度目の食事であろう。いつしか忘れていたその習慣。……自分もまた、この王国の機構になりつつあるのだろう。
白い真砂は記述を待って忘れ去られた紙のようで、波が束の間、その白紙にしみを付けては消えてゆく。
海底には揺れる文字たちが見え──その遠さに吐息が零れた。
薄く朝日を透かした硝子の先から、遠く何かの鳥が鳴く。昼も夜もなく断章を追い、語られず散逸した世界の名残を追う日々にも、時折こうして朝はくるのだった。
まだ少しぼやける目であたりを見やれば、簡素な寝台はそのままに、見覚えのない華奢なテーブルがひとつ部屋に増えている。置かれているのは軽く焼き目の付いたパンとティーポット。
書痴の亡霊となってから、はて幾度目の食事であろう。いつしか忘れていたその習慣。……自分もまた、この王国の機構になりつつあるのだろう。