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その乙女は、そこそこ豊かな国に生まれた。帝国、と呼ばれるその王家の、当代の王の第一子として。継承順位は男子へ優先的に割り当てられるため、彼女自身が玉座を継ぐ可能性はさほど高くはなかったが。
しかし長子であるからには、それなりに求められる責任があった。少女だった頃から、よく自らの立場をわきまえていた、その乙女は、臆することも腐ることもなく、研鑽を積む。
鬼見城の長女、コゾメはそうして自己研鑽に励み、多岐に渡る分野の教養、礼儀作法、社交技術などを身につけた。いつ、どんなかたちで、その身に流れる帝室の血が求められてもよいように、だ。
なにかを無理に言うまいと飲み込んだ、呻き出す手前のような雰囲気で、彼女へ「なぜ、バスターブレードを?」と問うてみせたのが、今の夫、今の鬼見城の王となった男が、乙女へともっとも真摯に向き合った瞬間であった、と彼女は思う。
そして、鬼見城の姫、コゾメはそれに微笑んだ。血でも、見目でも、社交でもなく、剣を見初めて向き合った、その目を乙女は慕うことにしたのだ。
……コゾメは彼を、伴侶に望んだ。これが、謎の多いと言われる鬼見城のふたりの、馴れ初めである。
雪が舞う。懐かしい風景を思い出させる白い色は、記憶の果てで踊る粉雪よりも少し重く、大きい塊だった。
「Meister(マイスター)……っ!」
紡いだ名前はかすれて響き、ああ何て情けない声だろうかと自嘲して、その《乙女》は軽く唇を噛む。
ふわりと風になびき、軽やかにゆるく波打つ、薄青い雪陰のような髪。
睨むように険しく細められた瞳は、凍てつく氷が宝石になったような淡い碧。
品よく並び、青みを帯びた影を落とす、瞳を縁取る長い睫毛は髪と同じ色。
Jungfrau――容易には人を寄せ付けない、美しくも険しき乙女。
その名で呼ばれる少女は、怒りを露わにしてもなお、名に違わぬ気高さで凛と立ち、冷たくも甘い笑みを浮かべてみせた。
自分を庇うようにして、積もった雪を散らして転がった、馴染んでしまった相手の名をもう一度だけ呼ぶ。
「職人さん(マイスター)……そんなところで眠ってしまったら、風邪をひいてしまうわ。寒さには弱いのでしょう?」
「……ヤー」
「しっかりなさいな!」
白い地面に点々と染みる赤を目の端にとらえ……それでも、返ってきた声があったことに、笑みを深める。
「仕方ないわね……」
そうして、氷菓の姫は、朗々と声を紡ぎ出した。
「ねえ、そこのお客様、少し私と遊んでちょうだい? ――野蛮な殿方は嫌いだから、加減を間違ってしまったらごめんなさいね」