gottaNi ver 1.1


どこへだって、行けた。

***

 妖魔、と大きく括られる種は、おおむね個としての自由意志を重んじ、その上で緩い連帯を保ってきた。主には血族、それから氏族、そして氏族の集まりである連、と、ゆるやかなつながりとして、群れを形成して暮らしている。

 そんな中にあって、自分の立ち位置は少し、異質なものだったのだと、思う。

 天義教――あるいは天界信仰。互助と自浄とを信条におくものたちが緩く連帯した『つながり』は、いつから在り方に 賛同し、互助と自浄とに救われたものたちからの支持を受けて、信仰のひとつとされるようになった。
 ……その統率を引きうけたとある妖魔が、私を産んだ。
 彼女はとくに生き方を強いたりはしなかったけれど、天界に身を置く様々なものたちは、言葉や態度、視線や表情で、私に期待し、失望し、きっと、傷ついていたのだと、思う。

 だから、私は、私の痛みを、私の叫びを、飲み込んで沈めて、口を噤んだ。

「行ったらいいんじゃないです?」

 軽く、本当に軽く。
 相槌ひとつこぼせなくなっていた私にそう言って、迷う心を柔らかく笑って受け止めて。逃げてもいいと、道をあけて。

「……ラナ」
「どうぞ。ふふ……久しぶりに聞きましたね、クオンの声」
「そ、んな、ことをしたら」
「んっふふ、今更そんな、評判だの弾劾だのを気にするような可愛い性根はしてないですねえ」
 だから、いいのだと、止めることなく、なんともない顔で背を押してくれた。
「妖魔が自由であること、天義教の実践者が自らの意思で歩き出すこと、これを罰することのできる同胞なんていませんよ」
 罰を求めるものなど、天義教のうちには数えなくていいでしょう、そこまで言い切って、つと手のひらが道の先を示す。

「……だから、ね。もう行っていいんですよ、貴方は他の何でもないただの貴方として自由に在るべきだ」
「…………」
「貴方は少し、優しすぎただけで。我々はきっとずっと、貴方の優しさにつけ込んで期待を押しつけてきた。御子であれ、救いの象徴となれ、ノルンを、天義教を、背負うに足るものとして立て、とね」
「それ、は」
「これは個人的な贖罪で、身勝手なただの自己満足です。ここまで貴方を縛り付け翼を奪ってきた罪を軽くしたいだけ」

 だからいいのだと、少し眉を下げて。

「貴方は、もうそんな顔をしなくても、いいんですよ。単に、ちょっとばかり愚かだった側近の罪の意識をひとつ軽くしてやった、そんな風にだけ思ってもらえれば充分ですから」

 ――救われたのは、私だ。
 声を封じて、言葉を諦めて、それでも手を伸ばしてくれた貴方。私が返せるものは、ねえ、もう『それ』しかないのでしょうか。

「――ひとつ、いいなら」

 笑って、と。
 どうか笑える世界で自由に羽ばたいてほしいと、そう言ってまた笑った。

 ねえ、きっと貴方も優しすぎたんです。
 ……でも、ありがとう。さようなら。

 できることなら、またいつか。


UP:2026-05-11
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