わりと面倒くさがりだよねえ、という香屋さん
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ただの人ならとうに鬼籍に入っていたであろう月日をまたぎ、久方ぶりに見(まみ)えたそのひとは、記憶のままの姿で変わらず微笑んだ。
「漏れ聞いた分だけでも、まあ、どうも我が子が随分と世話になったようね?」
……できれば、その笑みは知らないところで見せていてほしい類いのものだったが。
七森香月、今はそう名乗っている香屋には、界渡りによって流入した貴種の血がいくらか混ざっている。
天より来たりし神と『こちら側』で扱われるそれは、本来ならば地祇であり――鬼、あるいは荒神と呼ばれる種であるそうだ。
つまり、まあ、いわゆる恩寵や加護とは縁遠い、怒れるもの、荒ぶるもの、という訳だ。
はてさて、どうしたものか。思案して、しかしほどなく香月は結論を放り投げた。
この母からの血によっていくらかの面倒ごとが降りかかったのは事実であるし、迷惑ではあったのだから、彼女を宥めて場をおさめる理由も特にない。
怒気をまとって微笑むそれには少々ひやりとするが、向けられている先は自分ではないのだし、まあ、いいだろう。
放っておくとしよう。
心中が雰囲気に漏れていたか、どこか縋るような視線を感じたが、かれらがどうなろうとそれは自業自得であろうし、正直どうでもいいことだ。
なので、彼もまたうっすらと微笑んだ。
「ええ、まあ、幾許かの迷惑は被りました」
ひっ、と怯えるような責めるような呼気が微かに、耳に届く。しかし知ったことではない。
「よもや手心を期待していたとでもいうかね、私に?」
「……我が子に言うのもなんだけれど、あまり拝みたい笑みではないわね」
言っていいなら香月も同じ言葉を返したいところである。だが話の腰を折るのもそれで面倒だ、置いておく。
「半端に叩いて恨みに思われても後々がまた面倒です、やるならここで潰しきりましょう」
「そうねえ」
「おっ……鬼か!」
「鬼だけれど」
「まあほぼ半分は鬼かと」
「うっ……!」
何ともまあ、抜けたことを言ったものである。
ふ、とひとつ吐息をこぼして、香月――香(かざ)は、母へと、今度は他意のない笑みを向けた。
「そういう由ゆえ、忙しないことですが何卒よしなに。積もる話は後ほどとしましょう。――お元気なようでなによりです」
「そうね。――あなたもともあれ息災で嬉しいわ」