gottaNi ver 1.1


「……でね、天使様は本当にいて、必要な時は会いに来てくれるんだって」
「ほー」

03.

 半ば呆然と、無慈悲に続く時間をただ享受する。

 乱立、という表現がぴったりの様相で立ち並ぶ雑居ビル、その隙間に入り組んだ路地が広がる区画。
 すっと伸びるビルの外壁の先、頭上に広がる空があまりにも暗くて、もし絶望の色というのがあるなら、きっとこれに違いない、と思った。
 何度か着信のあった携帯電話も、今は諦めたように黙り込んでいる。

「……でね、天使様は本当にいて、必要な時は会いに来てくれるんだって」
「ほー」
「そうなの。それで、ちゃんと羽が見えたら、その人は天使様と会うために選ばれたってことで、それはすごく特別な運命なのね」
「ほー」
「だから私たち、選ばれたすごい人だってことなんだよ」
 助けて欲しい。
 天使様が必要に応じて姿を見せるというなら、ここは是非とも登場して、この果てしないお花畑トークを終わらせるべきだ。
「えっと、ユミ? あの、そろそろ帰っていいかな」
「えー、どうしてっ? だめだよ、絶対だめ」
 自分たちは人知を超えた存在に選ばれたすぺさるな女の子である、とか信じきってしまっているらしいユミは、明るめの茶色い瞳に意外の念を充満させ、チナミのささやかな抵抗を即座に投げて捨てる。

(ああー、無理、ちょー無理……っ!)
 眼前の少女が本気で本当の事を語っているのだとしても、ここで帰ったら人ならざる高貴な生き物と接触するチャンスは二度とないとしても、もう無理。
 現状、ありとあらゆる要素がほぼ全て無理だ、と断言できた。
 また上方へと視線を逃がし、チナミは半泣き半笑いで独白する。
(た、たすけて……紅茶、紅茶が……っ!)

 お気に入りの紅茶を受け取るだけの筈が、待ち合わせに指定した駅を目前にしたところで知り合いに捕まり、あれよあれよと入り組んだ路地に引っ張り込まれた。
 それからひたすら延々と、神様がどうの天使様がどうの、魂がどうの精神の高みがどうの、と説明され続けて今に至る。
 SOSを出そうにも、熱弁をふるっている同級生はメールを打つ暇すら与えてくれず、一方的にしゃべりまくっていて止まりそうになかった。

 普段からちょっとスピリチュアルなお嬢さんだとは思っていたが、まさかここまでとは。

「ねー、聞いてるー? だからね、もっと詳しいお話をしてくれる人たちがいてね、場所も近いから、一緒に行こ?」
「え?」
 少し拗ねた具合の呼びかけで意識を戻す。と、BGM扱いで聞き流しているうちに、何だか話が更に無理な方角へ向かっていた。
「すごくいい所だよ、アットホームなカフェって感じでほっとするムードだし。ね、行こうよ」
「ええ、無理無理。てゆか、待ち合わせしてるとこだから……」
「だいじょぶだよー、後でちゃんと説明すれば、行っちゃっても分かってもらえるって!」
 軽い口調ながら、乗り気のなさを押し切ろうとする意気込みを感じるお誘いである。
「無理。ぜったい怒られるっ」
 チナミは大慌てで首を横に振った。行き先が”カフェって感じ”じゃなくて真っ当な”カフェ”ならまだしも、テンションおかしい人物がお友達いっぱいだからおいでよ、なんて誘うカフェっぽい何かはNGに決まっている。

「……だめ、なんだ?」
 あからさまに不可能ですな気配を示していたからか、相手はマシンガントークの調子をやや落とした。
 ここでほだされたら負けである。
「うん、ちょー無理だと思う」
 機嫌を伺うような問い掛けに、即答で希望を粉砕し、勢いに乗ったまま離脱の構えへ。
「じゃ、そろそろ行かないとほんとにまずいから、帰るね」
「え」
「また学校でー」
 立ち直る時間を与えずに、と挨拶しながら歩き去ろうとした瞬間、必殺の一撃が飛んできた。
「なんで……?」
「うん?」
「なんで、そんな冷たいの?」
 つい数分前まで朗らかに喋り倒していた声が一転、細く震えて泣き出す兆しを見せる。

「……どして、帰っちゃうの……、私のこと、嫌い……なのっ……?」
「や、嫌いてゆーかね」
「嘘っ……嫌いで、一緒にいるの、やだからっ……だから、帰っちゃうんでしょ……っ!」
 縋りつく色で睨んでくる目には、今にも零れんばかりの涙。
「う」
 思わずうめいて足を止めてしまった。
 この、破綻寸前なカップルによる愁嘆場風の修羅場っぽい空気はどういうことだ。女子高生の友情というのは、こういう熱烈なのが普通なんだろうか。
「…………」
「…………」
 しばらく無言で向き合ううちに、突き刺さっていたユミの視線からは険が取れて、見捨てないでほしいと不安げに訴えてくるだけになる。

 チナミは元来、集団行動とか団結とかには割とドン引きなタイプだった。従って、このように泣いて訴えられても、一刻も早くこのいたたまれない空気から逃れたい、という以外の感想はあんまりない。
 しかし、泣いている女の子を置き去りに出来るかというと、ちょっと無理。
(ど、どうやって逃げたらいいんだろう、これ)
 膠着した状況を変化させるきっかけを求め、視線と思考は右往左往するが、目に入るものといえば灰色だったり茶色だったりする建物の壁か、開く気配のない非常口やら裏口やらばかり。
 もはや後日に揉めるのを覚悟で、泣かせたままダッシュで逃走するしかないか……と思い詰めながら、救いを熱烈大歓迎してさまよう目が、路地の角から現れた、通りすがりらしき男性と交錯した。
 割って入ってください、という訴えが通じたか、相手は珍妙な雰囲気の少女たちをいぶかしむ風情で、足を止めてこちらへ向き直る。

 それを阻止するかの如きタイミングで、涙声が訴えを再開した。
「私たちっ……友達、だよね……? 仲、悪くなかったよね?」
「あー……そだね、うん」
 一応まだ友達だし、割合に仲良しな感じだった、と思う。
「すっごい仲良し……とか、そんなんじゃなかったかもしれないけど。でも、友達……だと、思うの」
「……あー、うん」
(他人様が割って入りにくいそんな話題はちょっとやめてー)
 心の中で叫ぶが、無論そんなもの通じるはずはない。
「こないだ、一緒に帰ってて、天使様に会った時ね……私だけなのかなって思ったら、おんなじ方向を見てたから、二人とも天使様に選ばれたんだって分かって、すごく感動して」
 潤んだ瞳で、少女は熱に浮かされたように告白を続けた。
「う」
 短く声を漏らしたチナミの視線は、最後の希望とばかりに先ほどの男性へ向かったままだ。明らかに普通ではないノリと内容の会話を耳にし、眉をひそめている彼へと無言で助けを求める。

 違う方向に必死なその視線に気付く余裕すらないのか、友人の訴えは継続中。

「だから、私たちきっと特別なんだよ。特別な運命に選ばれたのに、なんで……なんで、だめなの?」
 やばい、超怖い。
「ね、一緒に行こ。私のこと、嫌いになったわけじゃないんだよね? 帰ったりしないよね?」
「や、ええと、あのね」
「……やっぱり、嫌い、なの……? 私たち、友達じゃない?」
「や、えっと、あー……」
「ちょっと、君たち」
 進退窮まったチナミが、いよいよ走り去るしかないかと覚悟したあたりで、男の声が割って入った。
 必死に目で送った無言の訴えが通じたのか、逃げてもおかしくないところ、迷いなくこちらへ歩いてくる。
 年齢はたぶん二十代の後半くらい、ある程度どんなところでも見かけそうな印象の顔、状況を考えれば当然という感じはするが、浮かぶ表情は硬く険しい。
 あちこちにポケットのついたジャケットは会社の作業服だろうか、髪は地とも染色ともつかない微妙な茶色で、配電盤とかをいじる人にも思えるし、引越し荷物とかを担いでいても納得しそうだった。つまり微妙。
 その微妙な人物は数歩の距離を置いて立ち止まると、微妙な問い掛けをぶん投げてくる。

「君たち、天使を見かけたのか?」

「……え?」
「……は?」
 男性と向かい合い、それぞれ素っ頓狂な声を漏らしてフリーズした二人に、追い討ちをかけるような言葉が続いた。
「金髪碧眼。純粋な西洋人というよりは、東洋との混血と思われるタイプの外見。顔立ちは非常に整っていて、中性的な美しさ。背中に一対の翼が見えたが、見直した時には消えていたとの話もある。……以上の特徴に心当たりは?」
「…………」
「…………」
「……見かけたんだな?」

 沈黙する二人の気配から回答を判断した男は、少女たちの反応も待たず、矢継ぎ早に質問を繰り出してきた。
「いつ、どこで?なぜ天使だと思ったんだ?翼が見えたのか?君たちはそれを見てどうした?それ以降、身の回りで変わったことが起きたりはしていないのか?どうなんだ?答えられないのか?」
「え、や、あの……」
 そんなにいっぱいいわれても。
 さっきまで聞いてきた天使様談義にも負けず劣らずのマシンガントークに圧倒され、一歩二歩と後ずさりする。
「……見てたら、何だって言うんですか」
 退路を絶たれてお手上げ状態のチナミとは対照的に、もう一方の少女は、攻撃的な声で警戒の言葉を発した。
 声音の刺々しさに対してか、少し眉をひそめた男はそっけなく応じる。
「詳しくは言えないが、事情があって探している。知っているんだろう? いつどこで遭遇したんだ」
「事情って何ですか」
「君たちが知る必要はない事だ。それより、遭遇した時の状況を答えてくれ」
「…………」

 ぎゅっと鞄を握り締め、沈黙した彼女は眼前の相手を真っ直ぐに睨みつけた。視線にさらされ、根負けした風情で男が説明を足す。
「……あれを放っておくと、大変な事になる。早く見つけ出さなければならないんだ」
 その言葉で、場の空気が変わった。
「嘘」
 零された呟きに合わせたかと思うタイミングで、幾許かの水滴が落ちてくる。それにも気付かない様子で、強く、敵意の明らかな声でユミが更に断じた。
「天使様は私たちを特別なところへ導いてくれるの。私たちの為に会いにきてくれてるのよ。大変な事になるなんて嘘」
「何を……」
「こないでっ!」
 不可解な面持ちで紡がれかけた反問を一蹴し、少女は憎しみすら感じる言葉で断罪する。
「嘘つき。どうしてそんな嘘つくの? 天使様が悪いものみたいに言わないで、嘘よ、ぜんぶ嘘でしょ」
「馬鹿な事を。あれが本当はどんな存在か知らないから、そんな事が言えるんだ」
「知ってるわ。あなたの言うことが嘘だってことも知ってる。天使様は私たちに酷いことなんてしないもの」
「だから、それが間違った認識だと言ってるんだっ」
「間違ってるのはそっちでしょ! 天使様に会ったこともないのに、いい加減なことを言わないでよっ!」

 どうしよう、超怖い。てかすげーやばそう。
 ヒートアップする論争を前に、全く付いていけない少女は一人、ひたすら冷や汗をかいていた。

「会えていればとっくに処理している! いいから遭遇した場所を教えろっ!」
 苛立ちで自制が崩れたのか、不穏な言葉が発される。
 聞きとがめたユミは、彼から距離を取るようにして後退、チナミの近くへ移動し、更に声を荒げてその発言を問いただした。
「っ、処理って何? 天使様に何する気なのっ?」
 もはや交渉が破綻したのは火を見るよりも明らか。男も攻撃的な語気で応じる。
「教える必要はない! 答えろ、どこで会ったんだ!」
「……ぜったい、教えないっ!」
 言うが早いが、飽く迄も天使様の潔白を信じる彼女は、眼前の敵へと掲げた腕を向けた。抱えていた鞄から取り出したらしいスプレーを容赦なく、天使様を狩りにきた悪しき者の顔面に吹き付ける。
「うっ!?」
 突然の凶行を予測できず、ターゲットは噴霧をまともに浴びた。
 目を痛めたのか、彼は両手で顔を覆って体勢を崩し、片方の膝を付いてうずくまる。
 続く少女の行動も早かった。
「こっち!」
 声と同時に腕が伸びて、事態に置いていかれていたチナミを問答無用で巻き込む。
「……え?」
 一人は使命感すら伺える気配で毅然として、もう一人はなす術もなく手を引かれるまま。
 降りつつある雨を避けるようにして、少女たちは全力で路地から走り去った。

 肌寒かった筈の気温が、急な運動でオーバーヒート気味の今は冷たくて心地良い。
 何度もコーナリングを重ね、時には裏口から表へとビルの中をショートカットして、とにかく走る、逃げる、突っ走る。
 時折ふと背後に目を向けながら、しかし全く止まる様子のない疾走を続けるユミは、繋いだ手を引きずられている感じでへろへろと足を動かす友達に、弾む息の合間から励ましの言葉をかける。
「もう、ちょっと、だから。がんばろっ」
 だがぶっちゃけて、慣れない陸上競技にグロッキーな身では励ましを聞く余裕などありはしなかった。
「うえ……」
(明後日あたり絶対、筋肉痛だ……)

 走り出してから体感で十分弱、そろそろ転んで立てなくなるかも、とチナミが諦めかけた頃、先導する彼女のスピードがぐっと落ちる。
 あちこちの角を曲がりながら走った末、辿り着いたのは駅前のロータリー。
 最後にもう一度、追っ手の姿が見えない事を確認してから、ユミは客待ちのタクシーに突撃した。
「乗ろ。早く行かなきゃ」
 急かしながら容赦なくチナミの腕を引っ張り、よれよれの彼女を半ば引き倒すようにして車内へ入れる。ダッシュで突っ込んできた少女たちへ怪訝な目を向ける運転手に、鞄から取り出した紙片を示して出発を要求。
「ここの、駅まで、お願いします。待ち合わせ、遅れそうで……」
「ああ、急いで欲しいんだね?」
「はい。あ、でも、そんなに無理しなくてもいいですから」
 完全に息の上がっている友人を少し心配そうに見ながら、しかし迷うことなく述べられる彼女の指示に従って、車は危なげなく動き出した。
 
 初めはゆっくりと、そして順調に加速して流れ去る、馴染んだ街並みを窓の外に見つつ。
 あかんたれな方向へ走り始めてしまった状況の中、チナミは心の中で絶叫する。
(やばいーっ! お……怒られる……っ、ヨリが絶対に本気で怒るー!!)

 確定的な恐怖の未来予想に石化しかけている、その切羽詰まった有様をどうとったか、ユミが気遣わしげに声を掛けた。
「……大丈夫? けっこう走ったし、疲れたよね?」
「う? あ、うん、もー走れないよ……?」
「え、うん、もう走らなくていいと思うけど……あ、バッグ持っとくよ。着くまでゆっくりしてて」
「あー、ありがとー」
 車から降りたらまず水分を補給しよう、と心に決めて、とりあえずは体力回復に専念する。
 死にかけのオーラを発しつつダウンしているチナミの横で、二人分の鞄を抱えたユミは、携帯電話を取り出した。

(……あ、そういえば鳴らなくなったけど、ヨリからじゃなかったのかな、電話)
 思い出して見てみれば、予想通りの人物から着信が数回。
 メッセージは残されていなかったが、着信履歴にある時間の間隔から、早く応答しやがれな圧力がひしひしと伝わってくる。
「うえ」
 意識せず、困り果てた呻き声が漏れた。
 どうやって怒りを鎮火するかは正直ノープランだったが、とにかく詫びをいれなければやばすぎる、との一心で慌てて電話をかける。
 戦々恐々とコール音を聞くこと十数秒、スピーカーから流れてきた声はしかし、彼女の予想を裏切るお留守番サービスなメッセージだった。
 折り返しの連絡を求めて待機していると思っていただけに、この展開は意外である。
 とりあえず、留守録相手でもいいから謝っとけ、と謝罪を吹き込もうとした矢先、チナミの手から携帯電話が消失した。

「?」

 瞬きして横に顔を向けると、奪い取ったそれを握り締めているユミと目が合う。
「……通話禁止?」
「もうすぐ着くし、電話するなら降りてからにしよう? ね?」
「…………」
 空になった手を所在なげに握って開いてしてみるが、没収が撤回される気配はなし。
「えーと。……じゃあ、鞄の中に入れといてくれるかな、電話」
「うん」
 笑顔でうなずいた少女が要求に応じた事を確認して、彼女は窓側へと顔を逸らし、こっそりと深く溜息を漏らした。
(……謝り倒したくらいじゃ、お怒りを解くの不可能かも……)

 ひたすら詫びてから泣き落とす、または物で釣る、もしくは笑って誤魔化す、いっそばっくれる、等々のパターンをシミュレーションしているうち、気が付くと風景が見覚えのあるものになっている。
 強まってきた雨に視界を遮られていて断言はできないが、勘違いでなければ、ぎりぎり行動範囲内の駅前繁華街な気がしないでもない。逃走開始地点から電車で行くとすると、乗り換えのため折り返しが発生するので時間が掛かるが、車で直線距離を走ったなら割合に早く着きそうな、扱いにくい位置にある場所だった筈だ。
 晴れる気配のない天気に配慮してか、速度を緩めた車はロータリーを通り過ぎ、濡れる心配のない高架下で停止する。
「はい、着いたよ」
「ありがとうございます」
 礼を述べながら財布を取り出したユミは、それを超自然体でチナミに渡した。
「……お?」
「払っておいて。ねっ」
 軽やかに言い置いて、彼女は一足先に車外へ脱出する。
「……えーと、とりあえず領収書お願いします」
「はいよ」

 支払いを終えて車を降りると、視界の端で先行した少女が手を振っていた。その隣には見知らぬ女性。
 淡い灰色のコートに薄い黄のセーター、空色のロングスカートを穿いた足にはベージュのブーツと、見事にパステルカラーなお姉さんである。ゆるくウェーブする長い髪も淡い茶色。
 濡れこそしなかったが、温度を下げた風はかなり寒い。しょんぼりしている様子のチナミに、パステルなお姉さんが柔らかい声を掛けた。
「ユミちゃんのお友達よね、あまり顔色がよくないけど、だいじょうぶ?」
「や、あんましだいじょぶじゃないです」
「あら、具合が悪いの? 寒い?」
 第一印象はなんとなく受付嬢っぽかったのだが、心配そうに体調を伺う姿は保母さんとかに近そうだ。
「うー、寒いし、のど渇いたし……足もやばいし……」
「ええと、それじゃあ座れるところで、何か温かいものでも飲みましょうか」
「てゆか、帰りたいのですが。可及的速やかに」
 というか、むしろ某人物に連絡を取って謝りまくらねばならないのですが、可及的速やかに。
 そんな心を知ってか知らずか、女性は僅かに眉を曇らせ、呟く。

「家に帰るのは……少し、待ったほうがいいと思うわ。……二人ともね」
「……どういうことですか、サキさん」
 声音と言葉に潜んだ不吉さに、ユミが動揺した声をあげた。


UP:2018-11-30
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