4.ねぇ 私は本当にあなたのことが好きで嫌いで
大好きで大嫌いで大嫌いで大嫌いで大嫌いで ねえ分かりますか?
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痛みさえも踏み躙って、感覚が鈍麻する迄その力を緩めない。無関心な眼、無表情な声、何も伺えない、嘲る様に冷めた笑み。認識を阻むのは、常に張られた不動の一線?
捨て置く様に自由を与えて、放り出す様に姿を消して、残して行ったものは言葉ひとつ。
一度とて呼ばれる事の無かった名が、今になって時折酷く痛むのは、未だその声で呼ばれる事を望むから。この名で存在する場所を得ても尚、足りないのだと自分の中で何処かが騒ぐ。
呼ぶ気が無いなら、初めから名など与えなければ良いのだと。
そもそも何故、創り出す事などしたのかと。
もし必要として、望んで、創り出し名を与えたなら、どうか一度だけでもと。
存在の理由を。名を。必要を。望みを。
一度だけでも、告げて。
そして叶わないのなら、いっそ凡てを否定して欲しい。
徒に過ぎる時間の中で、親に縋る子もそうして泣くのだと、誰かが笑った。
必要として欲しいと、存在に理由を求め、生きている事を許容されたいと望むのは、至極どうと言う事の無い事象だと。
ただ、期待を叶えない親がその先に居た場合、感情は拗れて厄介な事になるとも。
完全に否定する事は出来なかった。しかし違う事は判っていた。
この思慕は、親に向けるものでは無く。
この怨嗟も、親に向けるものでは無い。
造られた以上、果たすべき役割があった筈だ。気付けずに時を浪費する己が厭わしい。気付かせずに去った主が呪わしい。
熱を失って久しいあの眼に、在る筈の望みを見出せずに居る事がただ痛い。恐らく自分は、其処に在る望みの為、名を与えられた物だろうに。
痛覚が利かなくなる迄、傷に爪を立てる様に、何も伺えない笑みで、触れようとする凡てを拒絶する。
常態とするその在り方を、叩き崩してしまいたい。
名すら呼びはしない冷徹さの痛みを、どうか知って。
感じる事すら無くなった痛みから、どうか自由に。
相反する思い。縦令その存在に傷を付けても、叶うのならばと迄、望む。
私は本当に貴方のことが好きで嫌いで。
大好きで大嫌いで大嫌いで大嫌いで大嫌いで、分かりますか?