gottaNi ver 1.1


この覚悟だけは抱えていく

***

 それは、私が己に課した義務だった。

 なによりだれより優しく遠いそのひとのため、ひとつ、絶対に成し遂げなければならないと決めたこと。

 兄は、優しいひとだった。すべてを身ひとつに引き受けて、それでも柔らかく微笑んで、そうしてすべてを手放していた。
 自身のしあわせも、安全も、王として立つことを選んだその時に、捨ててしまっていたのだろう。
 国の礎になり、すべての民を守り、等しく掬い上げるために、個であることも、放棄した。
 ただ、この国の存続のために動く、機構。天泣の信仰と、国益とを、合理でもって司る……そんなひどく冷徹な存在として、あのひとはいつでも笑っていた。

 道は、敷かれていた。
 私はただ、上を歩いていくだけでよかった。

 ――微笑み続ける愛しい兄を、指先ひとつすら伸ばし引き留めることも出来ずに。

 知っています、残酷なひと。
 私たちがただ己の無力を嘆くだけでいいように、出来ることなどなにもなかったと泣けるように、なにかができたならばと悔いずにいられるように、貴方はすべてを周到に埋めてゆかれましたね。

 分かっています、優しいひと。
 王であることを選んだ貴方はすべてを犠牲にするのでしょう。私たち弟妹すら等しく、例外なく。
 そうしてきっと、永遠に、その責を背負い続けてゆくのでしょう?

 だから私は、決めていた。
 お兄様の傷にだけは、なるまいと。

 ――私は、幸福にならなければ、いけない。

 決して、断じて、あのひとの背負う重荷のひとつに並ぶことなど、あってはならない。
 ……証明を、するのだ。

 その選択が、間違いなく私を幸福にしたのだと。

 ねえ、お兄様?
 ――私、しあわせになりました。幸せでした。

 だからどうか、私のことくらいは晴れやかな思い出にしてくださいね?
 可愛い妹からの、お願いです。


UP:2026-07-04
よければ感想ください!|д゚)ノシ