痛みと祈りとがこぼれていって。
***
ぱたり、ぱたり。
赤が、輪郭を伝って、顎から落ちていく。
「うわ」
「……ああ」
「やば、うわーごめんなさい兄さん、うわあ」
「いいよ。大した怪我じゃない」
はらりと、穏やかな笑みが咲く。
「お前がなんともないなら良かった。怪我はしていないね?」
「して、ないです、はい」
「そう。それならいいよ」
「よ……っくは、ないなあ!」
あまり見ない様子の、焦った顔と声。
「テンロウ!」
「っ、あ」
名前を呼ばれて、出た声は、どこか知らない誰かのようだった。
「ちょっとそのままツイリ兄さん見てて! 誰か呼んで……ついでにスマルト兄さんあたりにしこたま怒られてくるから! よろしく!」
そういって、兄――セピアが、走っていくと、庭にいるのは自分たちだけになる。
ぐるぐると、頭の中で、なにかが暴れる。
「テンロウ?」
「っの、血……怪我……」
「――ああ」
ふ、と気付いた顔で一度またたきをして、兄――ツイリが、ふわりと俺の頭を撫でた。
「セピアに何もなくて良かったよ。……怖かったろうね」
「――っ!」
……怖い。ああ、そうだ。
怖かった。あの瞬間、彼がきっと怪我をすると思って。
どうして、自分は何もできずにいるのだろうかと。
「あれ。……テンロウ?」
戻ってきたセピアの足音と声がして、顔を見て……とたんにぶわりと、何かが、はじける。
「っの、馬鹿!」
「うわ」
「馬鹿、あほ、大馬鹿、馬鹿兄……っ!」
「えっなに、どうしたの、いや分かんないけどなんかごめん、ごめんて!」
「……っも、お前も、っの、な、んで……」
セピアも。
ツイリも。
……自分も。
みんな、みんな、馬鹿だ。
一度はじけた心はもうどうにも自由にはならなくて。
ぼろぼろと、目からあふれる涙も、どうしようもなくて。
……痛みを、恐怖を、思い出す。
誰にも、あんな思いはしてほしくないと、願ってしまう。
どうして自分を庇ったのかと、どうして怪我なんかをしたのだと、めちゃくちゃな怒りを、ぶつけてしまう。
泣いて、泣いて、そのまま疲れてどうにかなってしまって、気付いた。
ああ、俺は、この場所がこんなにも、大事なんだと。