この心も熔かしてしまおう
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どこか遠くで、自分の浅い呼吸を聴く。
どこか遠くから、自分の灼けるような声がする。
動け。
止まるな。
こんな所で、終わるなど、許さない。
ただ、どくどくと拍を打つ心音だけが確かなもので。
「っ……!」
取り落としそうになる柄を握り直し、崩れかける膝に歯噛みしながら、すべてを振り切って、踏み込んだ。
「……まあ、そんなものだろう」
ギッ、と一瞬だけかみ合った刃がすぐにいなされて、滑る。流れる身体をなんとか留めようと、そちらに向いた意識を、撫でるような声がひとつ引き戻した。
「及第だ」
言葉と同時に、腕を取られ、捻るようにして力をかけられる。
「っつ、ぁ……っ!」
「このあたりで、寝ておけ」
意識は一度、そこで切れた。
……どこか遠くで、声がする。
――生きて。
「っ!」
跳ね起きた意識が、近くに気配をひとつ捉えて、けたたましい警鐘を鳴らした。
叩き込まれた反応で、身体は気配から距離を取ろうとする。遅れてついてきた思考が、それをねじ伏せる。
「起きたな」
「……おはよう、ございます」
揺れた呼吸を抑えながら応えれば、薄明かりの中で馴染んだ気配がひとつ、微かに笑った。
及第だ、と告げた声が、蘇る。
「もうしばらく寝ておけ、まだ動くには早い」
「はい。……どのくらい、落ちてました?」
「四半日かその程度だな。悪くはない。起き抜けの対応も様になってきた」
淡々と、それでも分かるようになってきた、いくらか満足そうな色の乗ったそれに、少し、力みが抜ける。
「ツイリ」
「はい」
呼ばれ、応えれば、見定める視線に奥底を射貫かれた。
「――お前は『それ』をよしとするか?」
「――はい」
ひと呼吸、覚悟を詰めてから、答える。
……構わない。
この不格好な、悔恨と呪いと、怯懦と意地と。
なにもかも、全て塗り潰して殺意に変える。
――なにもかもを、埋めて、生きていく。
「いいだろう」
ふっ、と、呼気のような柔らかさで、その人は『それ』を、差し出した。
「特務、名を【絶禍】」
「…………」
「戦い、壊し、殺して、生きろ。できるな?」
「はい」
迷いは、ない。
私はただ、そのための刃として、研ぎ上げられた。
呼ばれるがまま、災いともなろう。