えっちゃんは面白ければなんでもいいし、睡月は守れるならなんでもよかった
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広々とした空に、月がひとつ。
その精髄を注ぎ込んで作られたような、銀糸の髪と薄青い冴え渡った瞳とを、よく、覚えている。
禍鎮め。
魔を縛り打ち払い清めることで続いてきた、縛魔の一族において、それは修祓の要となる役目の名であり、また、消費され使い潰される道具の名でもある。
従属を叩き込まれた心身はただ戦い、弄ばれ、壊れてゆく。
「面白い」
辺りに数えるのも難儀なほどの屍を散らして、その鬼は清らかに、雅に、息を吞むほど美しく、笑った。
「縛魔なぞ寄る辺のない流民が裔(すえ)、その禍鎮めとなれば今やつまらぬ傀儡ばかりと思っていたが」
つ、と視線が『私』を、見る。
「お前は生きているな?」
生きて、いる。
そう。
私は、私として、在る。
心が壊れることもなく、体が死ぬこともなく、まだ、生きている。
「――どうか、御慈悲を」
興味を引いた、と確信した瞬間に、言葉は自然とこぼれ落ちた。
戦うまでもなく、解る。勝てるなどと烏滸がましいことは、思わない。相手になるかさえ、怪しいものだ。
あの鬼は、そういうものだった。
「この場に御身をお呼びだてしてしまったのは此方の過ちです。申し開きはございません。我が身で贖えるものなら如何様にも致します。ですから……どうか」
「っふ、庇うか。離鬼の身であれ、縛魔の禍鎮めが今やどう在るものかは知っている。それが。……お前、生きているのであろうが?」
「っ……」
縛魔など。……『私たち』をいいように勝手をするものたちなど。
滅んでしまえと、叫ぶ心は、確かにある。
「……それでも。守るべきものも、まだ、ございますれば」
私が壊れなかったのは、そうあることを望み、そうあれるよう手を尽くしてくれたひとたちが居たからだ。
……私がまだ壊れていないのは、そうあることができなかったものたちを、これ以上はと、願ったからだ。
「――いいだろう」
沈黙を、どう捉えられたのかは、わからない。しかし私のあまりにも無謀な請願は通り、鬼はそれ以上の屍を増やすことなく立ち去った。
いずれこの身を、貰い受けると。
それまで壊れてくれるなと。
ただ、月だけが、美しかった。