いつまでも続くはずだった、春の日々。
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梢のあいだを、花の気配を乗せて風が渡る。〈庭〉のこの辺りは、ゆるやかに春を迎えつつあった。
どこかで、同胞が弾む声をあげている。
姿は見当たらなかったが、それほど遠くではないだろう。
「イグ」
普段の呼びかけであるそれを少し強く口にすれば、ほどなく、先ほどの自然なそれより強く、風が吹き抜けた。
「コード!」
応えは上から。
支配領域である風を使い、空を駆けてきたのだろうイグが、飛びつく勢いで降下してくる。
「見て見てー!」
手には、淡く色づいた木の枝が、ひとつ。
「どうした?」
「拾った! あ、ほんとにたまたまだからね!」
「……分かっている」
こちらを気遣ったのであろう慌てた説明が、なんともこそばゆい。
私たちの中でも感情表現が豊かで、勢い任せな所の目立つイグではあるが、無理に花を手折ってくるような性根はしていないと、知っている。
特に自分は、地を支配領域としているから。
おそらく、気を揉んでしまうことがないよう、咄嗟に言葉を足してくれたのだろう。
「綺麗だなと思って、見せたかったから持ってきちゃった」
「この辺りは春に近いのだろう。もう少しすれば、きっとその花も満開になる」
「じゃあ春を少し先取りしちゃったねえ、ふふ。また咲ききった頃にみんなで来よう?」
「そうだな。アルもきっと喜ぶだろう」
いまひとりの名を出せば、楽しみだねと、また弾む声が返された。
――ここは永遠の庭、すべてを内包した常春の楽園。
〈私たち〉は、終わることなど知らずに、ただ笑えていた。