月牙おとーさんの覚悟とわがままと、愛。
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世界、あるいは存在の、あるべき仕組みを律と呼ぶ。そして魔力を操ることで世界に呼びかけ、律を模倣し、組み合わせ、望む結果を導き出す術が、魔法、そして魔術である。
その為の効果的な呼びかけが即ち、呪文と言われるモノの本質だ。
その中でも突出して律と親和性の高いいくつかの定型句を、言霊という。
「そこまでは、まあ、なんとなく知識としては……」
「そしてあらゆる言葉をその言霊として機能させうる異能と、その使い手を、言霊師、と呼ぶ訳だが」
「……ええ、でもうちの子のそれ、ぶっちゃけ言霊師だからで説明できる範疇じゃないよね、ヘル?」
問いには、無言の笑みが返された。
このひとのこれは、だいたい『よくできました』のそれ。
「――杖だな、これは」
「杖?」
「生き物ですらない。世界律――世界そのものの在り方を決めている根元にして最大の律を、読み解き取り込み機能する、そういった性質のモノだ」
「……モノ」
「世界の仕組みをすべて読み取り続けるモノ。通常、そこに生き物や個としての意識が残る余地はない。……単に処理限界の問題だ。世界そのものの情報を流し込まれて、まっとうな人格や自我を維持しながら受け入れられるほどの余裕など、どんな種のどんな個体だろうとそうはおるまいよ」
それはつまり……まっとうに生きて成長することは、ないだろう、ということ。
と、聞いたところで、折れられるならここにはいない。
「なるほどで納得できるほど物分かりが良かった覚えはないかなぁ」
「まあ、そうだろうよな。……杖としての在り方を抑えたところで本質はそのままだ、枷が何かの拍子に壊れて終わる可能性のほうがよほど高い。それでも、お前は我が子を生かせと望むわけだな?」
「そうだね。――もしもがあれば、覚悟はできてる」
――責任は、取る。もし終わるほうがマシなのだとなれば、その時はこの手で。
だから。
「あの子……レイラを、せめて生きるかを選べるまでには、繋ぎ止めて欲しい。お願い、義父さん」
「――まったく、お前はいつも我が儘の使いどころが巧い」
ひとつ小さなぼやきを口にすると、ヘル――我が養父にして希代の術者であるそのひとは、言った。
「いいだろう。――その覚悟、ゆめゆめ忘れず向き合えよ」