キレ駆動式てんろち
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「……おい。お前、ちびすけ。聞こえてるか? 目は見えてるな?」
記憶のはじまりは、その呼びかけ。
ここがどこで、目の前の相手が誰なのか、自分がどうしてここにいるのか。
なにひとつ分からない。
ぼんやりした頭で、それでも何かをこたえようとして、走った痛みにちいさく、声をこぼした。
「……いっ……」
「お、声は出るか。まだ治しきってないからあんま動くなよ」
「……あたま」
「痛むよなあ、まあ少しがんばれ。死んでるかと思ったわ。結構な怪我だったぞ、お前。どっから連れてこられたんだ?」
「連れ、て?」
「ひとりでこんなところに来てぶっ倒れたわけじゃあ、ないだろ? 親なりなんなり、家なり……いつもいた場所はどこだった?」
親。家。……いつもの、場所。
「…………しら、ない」
ただ、頭がひどく痛くて、ぼんやりしていて。
なにも、思い浮かぶものが、なかった。
痛みの合間になんとか話をして、それを伝えると、その相手はさすがに困ったようだった。
「あー……怪我か……。いや、心の問題か?」
「……こころ?」
「ん、まあいろいろな。とりあえずその、痛いやつだけは何とかしてやるが……」
「ど、して?」
「そりゃあ、まあ、匿施巡礼ってのがそういうもんだからな。困ってるやつを助けるのが仕事みたいなもんよ」
言っていた意味は、半分も分からなかったけれど。
たぶん、嫌な相手ではないのだろうとは、思った。
どうして、と。
怪我を治されながら、どこかから湧いてくる熱が、ある。
どうしてこんなところにいる?
どうしてなにも分からない?
どうして自分はこんな痛い思いをしている?
――どうして、こんなにも、なにもできないんだ。
「――いい目だ」
その時には、かけられた言葉は理解できなかった。
……今なら、分かる。
この熱が、……怒りが、自分を突き動かす命の根元だ。
俺を踏みにじるこの世界に。抗しきれない俺の無力に。嫌だと、心が軋んで、叫ぶ。
理不尽に潰されるだけの命になどは、ならないと。
今もその熱は、最奥で燃えている。