gottaNi ver 1.1


キレ駆動式てんろち

***

「……おい。お前、ちびすけ。聞こえてるか? 目は見えてるな?」

 記憶のはじまりは、その呼びかけ。

 ここがどこで、目の前の相手が誰なのか、自分がどうしてここにいるのか。
 なにひとつ分からない。
 ぼんやりした頭で、それでも何かをこたえようとして、走った痛みにちいさく、声をこぼした。
「……いっ……」
「お、声は出るか。まだ治しきってないからあんま動くなよ」
「……あたま」
「痛むよなあ、まあ少しがんばれ。死んでるかと思ったわ。結構な怪我だったぞ、お前。どっから連れてこられたんだ?」
「連れ、て?」
「ひとりでこんなところに来てぶっ倒れたわけじゃあ、ないだろ? 親なりなんなり、家なり……いつもいた場所はどこだった?」

 親。家。……いつもの、場所。

「…………しら、ない」

 ただ、頭がひどく痛くて、ぼんやりしていて。
 なにも、思い浮かぶものが、なかった。

 痛みの合間になんとか話をして、それを伝えると、その相手はさすがに困ったようだった。
「あー……怪我か……。いや、心の問題か?」
「……こころ?」
「ん、まあいろいろな。とりあえずその、痛いやつだけは何とかしてやるが……」
「ど、して?」
「そりゃあ、まあ、匿施巡礼ってのがそういうもんだからな。困ってるやつを助けるのが仕事みたいなもんよ」

 言っていた意味は、半分も分からなかったけれど。
 たぶん、嫌な相手ではないのだろうとは、思った。

 どうして、と。
 怪我を治されながら、どこかから湧いてくる熱が、ある。

 どうしてこんなところにいる?
 どうしてなにも分からない?
 どうして自分はこんな痛い思いをしている?
 ――どうして、こんなにも、なにもできないんだ。

「――いい目だ」

 その時には、かけられた言葉は理解できなかった。

 ……今なら、分かる。
 この熱が、……怒りが、自分を突き動かす命の根元だ。

 俺を踏みにじるこの世界に。抗しきれない俺の無力に。嫌だと、心が軋んで、叫ぶ。
 理不尽に潰されるだけの命になどは、ならないと。

 今もその熱は、最奥で燃えている。


UP:2026-04-04
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