<お題>
プロキオンの祝福をうけた旅人。蛍石のヒレを持つ。友人に贈るため、雪の降る音を求めて旅をする。金剛石に縁の深い旅人はライバル。
***
間もなく、宵闇が帳を下ろす。
沈み始めた陽の光を透かし、ほのかな茜色に染まったヒレが、吹き荒ぶ風にはためいた。緑から紫へと移り変わる蛍石の色は、時折その鉱物らしさを示して暗闇で光る、らしい。
「残念だけど、今夜はだんまりみたいかな。もともと、そんなに光るものでもないんだけど……北のほうの蛍石たちは、もっと蛍光が強いって聞くから、どこかで泊めることが会ったらまた見せてもらうといいかもね」
夜天の下、一夜限りの酒宴を囲む。手首から肘にかけて腕を彩った、優美な装飾を月明かりに透かした旅人は、そのままヒレを泳がせて星々を数えた。
冬の空に昇った金剛石の輪郭線をゆっくり辿って、そのうちの一つで指が止まる。
祝福の星はプロキオン、全天でもっとも輝かしき天狼に先立ち、夜をゆくもの。
「旅の行き先? 冬が始まる場所かな」
雪の音を、探して旅に出たのだという。
「雪の降る音を拾いにね。ちょっと友人に贈ろうと思って」
どこか遥か、しんしんと舞い散る真白い六花が、他の一切の音を排して降り積もる場所。それを見つけるため、旅人の旅は始まった。
「雪花石膏たちなら、知っているかと思ったんだけどね……どうも忙しいらしくてさ。……長が?」
いつだったか、雪花石膏の旅人が話していった報せを伝えると、合点がいったという顔で頷く。
「ああ、それじゃあ弔いが終わるまでは、こっちに構ってる場合じゃないか。とりあえず、先に別の伝手を試したほうが良さそうだね。……やれやれ、思ったよりも長い旅になりそうだ」
杯を空けてひと息つくと、もう一度、冬のダイヤを仰ぎ見て、旅人はどこか挑むような目で笑った。
「……ま、それでも、始めたからには往くだけさ」
白み始めた空から目を離して、こちらを振り返った旅人の身体を風が撫でる。
「渡り鳥が言っていたけど、しばらく風が続くらしいから、あなたも気をつけて。金剛石の旅人にはもう会った? ……そう。じゃあ、どこかでそいつに会ったら伝言を頼むよ。『よい旅を』って、言ってやってくれるかな」
続く旅の無事を願ってか、終わらぬ旅を揶揄してか。どこかで同じように道を辿る誰かへと、祈りと挑発とを閉じこめた笑みを向け、旅人は自分の旅路へと帰っていった。
明けてゆく遥か天上には今日も、道行きを見守る数多の祝福が在る。
***
たまには良いかな?と思って昔の話を絡ませてみた。