パパやってるテンロウさんと兄やってるジュニアだよ~ ※ 虫がチョット出てきてる
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この世界の『王』は、即位をすると人の枠組みを超え、長い時を為政者として生きることになる。寿命を取り去り、病を遠ざけ、人にして人ならぬ存在へと、その身を変える儀式が、あるからだ。
……なんかそういう訳で、うちの父母は、俺が物心ついてからこれまで、見た目がまったく変わっていない。
この『時代』がその仕組みの上にできてるらしい、とだけ伝えられているが、正直あまり理解してはいないです。はい。
まあ、統治が安定しているなら、それが長続きするに越したことはないから、そのあたりで色々あってどうの、とかなのかもね。
何が言いたいかというと、まあ、妹のことなんだけど。
言った通りで、両親が不老の身だったりするものだから、うちの兄妹はそこそこ歳が離れている。生まれた時から成長を見守ってきた覚えがバッチリあるし、年の差が大きくて喧嘩にもならないため、もう純粋におもしろかわいい妹だ。
それが、いま、ちょっと雲行き怪しい感じ。
「…………」
いや、我ながらね、よくこらえたなこれ、と思うんですよ、ねえ?
「……虫、だな」
「虫です」
「庭にいるあれか……」
「つつくと丸くなる、あれですね」
「……何がどうして、それが俺の所に持ち込まれた訳だ?」
「何がどうしたのか、俺の枕元にこれが置いてあったからですね!」
いぇい!
「やかましい」
ぺ、っと軽く、額を小突かれる。絶妙に痛い。
「いや、なんでかなら、まあ、あの子だよなぁってほぼ分かってるんですけど。寝ぼけた頭でカパッとこれを開封してしまった時の俺の顔、見ます?」
「いらん。再現されなくても想像はつくし見る気はない」
「あっはっは、もうすごかったですよ、咄嗟に箱を投げなかった自分に感謝してます」
私室の卓上に置かれた小箱は、握るのにちょうどいいサイズ。可愛らしい色に花柄のついたそれの中で、小指の先ほどの黒くて楕円形でたまに丸くなるあれがわさわさと、もぞもぞ所在なげに動き回っている。
正直、ドン引きしたしちょっと犯人に思い至るまえにキレかけた。
「こどもって、怖いですよね。いや怖いもの知らずというか」
「同意はするが。……で、なんで俺の所にわざわざ来た訳だ?」
「いえ、とりあえずこの怖気を誰かに共有しておかないと気が済まなくて」
「馬鹿か!?」
「待った待った父上、それはそれでちゃんとした話もありますから」
「お前な……」
「いえね、たぶんめっちゃプレゼントのつもりなんだろうなとは分かるので、なるべく否定的な事は言いたくなくて。かといって喜んでみせても、これ次が来たらたぶん耐えられませんし、どう言って突き返せばいいかなー、と」
「……ああ」
さすがに真面目に相談を持ちかければ、すぐに理解した様子で考え始めてくれる。さす父!
これでも一応、俺は大国の王家に生まれた次男坊。つまり対人スキルに偏りがあり……まあ、小さな子と目線を合わせて肯定的なコミュニケーションをとるとかはね、あんまり経験がないって訳ですよ。
兄も兄で離れているので、ほんとにこどもってどうしたものか、分からない。ふふ、兄として無能!
それでもまあ、叱責して泣かせたりはしたい訳でなく。
なるべく、穏便に再発防止をしたいもので。
「父上はなんかそのへん巧そうじゃないですか。ほら可愛い息子を助けて下さいよ」
「……お前な……」
呆れた顔で、けれど俺の考えを否定はせずにいてくれるから、まあこのひとなら大丈夫だろう、と信じられる。
いや、これでもね?
ちゃんと家族への信頼と愛情はあるんですよ、真面目に。