鬼見城の姉弟、弟くんはちょっと憧れフィルターが強いね
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「私はそれでも構いませんわよ?」
「……姉上……」
凜と、華やかな気品はそのまま、笑んだ姿が、その時はどこか痛ましかった。
鬼見城。帝国の格を持ち、下部の王国を統制する任を拝する、このエレボスの大国のひとつ。
その長が我が梭星の一族、帝室だ。代々、血と伝統とで繋いできた歴史と統治とは、並ぶ事こそあるにしても、劣ることはない。
……そう、信じ、誇りに思ってきたというのに。
「本気なのですか。あんな……天泣などという国の、直系ですらない男と縁付くなどと!」
「あら、かの国は伝統的に子を選ばぬ国。当代直系であったとしても血ではさほど変わりはないでしょう」
「っ、それなら、なおさらでしょう。どこの馬の骨とも知れぬ血を、栄えある鬼見城に入れ、王として戴くなどは……」
「大統府の決定権でしてよ」
一言、有無を言わせぬ強さで告げた姉は、自分などよりよほど政治を弁えているようだった。だからこそ、なおさらどうしてと歯噛みする思いは強くなる。
こんなにも聡明で貴い身のこのひとが、確たる血筋もなく王族の立場を取って付けただけの男に、下賜されるだなんて。
「もとはと言えば我が父の失態、即ち鬼見城の落ち度である以上、選ぶ余地はあるとしても拒む自由はない話。であれば、長子である私が婿を取れば済むことでしょう」
「ならば私があの国から……」
「おやめなさいな」
「なぜです!?」
「此度の裁定は我々から実権を削ぎ、鬼見城の体制を変えるためのもの。たとえ天泣王家より花嫁を迎えたとして……貴方、飾りに過ぎない玉座で改革に取り組む覚悟はありまして?」
「……それは……」
この国を、家を、その在り方を変えねばならない。それも、天泣王家からの伴侶と共に。……できるのかと、訊ねられれば、言葉に詰まる。
「私は、構いませんのよ」
繰り返して品よく微笑む姿は、ひどく眩しく――遠かった。