はじまりの終わり、終わりの始まり
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赤に青、そして彷徨える幻月の、すべてが揃った夜だった。
ざわざわと世界を満たす魔力が月に誘われ、震え歌うようで、ああ、もうすべて終わりにしてやろうか、と滅びを謳う気になっていて。
ふ、と間近に顕れた気配が間に合わなかったなら、自分はそのまま持てる全てで、この世界を終わらせようとしていただろう。
「……待たせたな。まぁ別に困ってもいないだろうけど、一応は遅くなったし的な?」
「いつであれ終われるのなら構いませんよ。今更です。俺はその時まで眠るだけですから」
「あっはっは、デスヨネー」
あの夜に俺を拾ったこいつが、全てに飽き、倦んで、諦めていることは知っている。終わりたいという願いさえ、倦怠の果てに捨ておいて眠りに逃避し続けているのだ、別に約定の時がいつであろうと心底どうでもいいのだろう。
その在り方がこの『無為の王』なのだから、まあ詫びがどう取られようが俺も別にどうでもいい。
ただ、借りを返して約定を果たし、自由になるだけのこと。
「ほい」
首から下げていた黒い逆十字、離散した俺の羽を拾い直して固めた、術式の核を、無造作に投げ渡す。
「……ああ、神王とやり合った際の」
「そ。俺の中でも自我の核に近いから、まあ起点にするにもいいと思うよ」
服従を強いた術式に抗したあの時、定められた『白』を否定する意志としての『黒』に染まり、そのまま固着してしまった羽。傷であり、汚点であり、同時にそれでも『俺』を変えることはできなかっという証左。
これが定義を失い瓦解するなら、それは間違いなく俺が終わるその時だろうから。
「とりあえず封殺して、いずれ俺が終わる時、存在の全魔力を核に転移させて吹っ飛ばす。まぁうっかり封印もブチ抜いてちょっと大惨事になるかもだけど、そこんとこは俺もお前もどうでもいいだろ」
「……まあ、そうですね。俺は基本的に、終われるなら後先など興味はありません」
「俺も自分が終わったあと何がどうなろうと知らねーし?」
こてん、と慣れてしまった小芝居で首をかしげてみせると、億劫そうに伸ばした指先が、投げ渡された逆十字を受け取った。
「――じゃあな」
「……ええ」
感慨もなく短い言葉をひとつ交わして、術式を編む。
眠れ、眠れ。初めての同胞。哀れな魂。その全てを俺は永遠に封じ、そして葬り去ってやる。
――あの夜を、いま、終わらせよう。