gottaNi ver 1.1


それでも、まだ諦められないもの。

***

 怒ってもいい、と、言った声はいつも通りに穏やかで。
 ――殺されてもいいのだ、と、いうようにも聞こえた。

「あの子は、それほど大切ではなかった?」
 変わらない調子で続けられたその問いに、乗るな、と冷静さを保とうとした思考はあっさり焼け落ちる。
 大事でない、など、そんなことはあり得なかった。
 襲撃の報と、負傷したその姿とに、詰まった息と冷えた指先とを、まだ鮮明に思い出せる。

 それでも。
 ……それでも。

「ふ、ざけるな……っ!」
 首元へと伸ばし、布地をきつく締めた手は、どうしてもそれ以上を踏み込めなかった。
 ここで怒りのまま、奥にある首に手をかけたとしても、誰も何も言いはしないと、分かっていても。

「お前、が」

 お前が。
 いつも通りに、笑っているから。

 どうしても、自分はこの手をこれ以上は進められない。

 ……死んでもいい、と笑えるのなら。
 殺されてやってもいいと、思っているなら。
 どうして、この願いを汲んで、生きてもいいと、言えないのか。

「馬鹿だね」
「……うるさい」

 返せた言葉は拗ねた幼子のような無様なもの。

「うるさい、やかましい、馬鹿はどっちだ、この大馬鹿が。ど阿呆、馬鹿兄、くそったれ、ふざけるな」

 ……それでも。
 それでも、死ねとだけは、絶対に言えない。

 生きろ。
 どうなってもいいと言うなら。

 死んでもいいなどと、笑わないでくれ。


UP:2026-03-20
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