それでも、まだ諦められないもの。
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怒ってもいい、と、言った声はいつも通りに穏やかで。
――殺されてもいいのだ、と、いうようにも聞こえた。
「あの子は、それほど大切ではなかった?」
変わらない調子で続けられたその問いに、乗るな、と冷静さを保とうとした思考はあっさり焼け落ちる。
大事でない、など、そんなことはあり得なかった。
襲撃の報と、負傷したその姿とに、詰まった息と冷えた指先とを、まだ鮮明に思い出せる。
それでも。
……それでも。
「ふ、ざけるな……っ!」
首元へと伸ばし、布地をきつく締めた手は、どうしてもそれ以上を踏み込めなかった。
ここで怒りのまま、奥にある首に手をかけたとしても、誰も何も言いはしないと、分かっていても。
「お前、が」
お前が。
いつも通りに、笑っているから。
どうしても、自分はこの手をこれ以上は進められない。
……死んでもいい、と笑えるのなら。
殺されてやってもいいと、思っているなら。
どうして、この願いを汲んで、生きてもいいと、言えないのか。
「馬鹿だね」
「……うるさい」
返せた言葉は拗ねた幼子のような無様なもの。
「うるさい、やかましい、馬鹿はどっちだ、この大馬鹿が。ど阿呆、馬鹿兄、くそったれ、ふざけるな」
……それでも。
それでも、死ねとだけは、絶対に言えない。
生きろ。
どうなってもいいと言うなら。
死んでもいいなどと、笑わないでくれ。