沙迅
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青年はその昔、ひとつの時代の礎を築いた。それは、半身、とでも言うべきひとりのための、世界への反逆であった。アーツ――わざ、と名を付けた技術は、はたして、世界の有り様を一変させる。
生まれながらの、限られた者だけに与えられていた『火』を万人のものとしたアーツは、いまや知らぬもののない存在となっていた。その事を二度目の生において確認した青年は、やがて自らアーツの時代に幕を引く。それもまた、ただひとりのための決断であった。
沙迅、アーツの創始者にして稀代の使い手であった青年は、なんら迷いなく時代を築き、そして終わらせた。すべてはただひとりを守り、そして取り戻すために。
世界を巻き込み、変容させ、そうして彼は、望む世界へようやくたどり着くだろう。