迅深
***
その青年は、いずれギフトと呼ばれることになる、『本来』の魔導、その稀少な使い手のひとりだった。優れた才と技量、意志を備え、当代の術者としては最高峰と言っても差し支えはなかったであろう。
しかし頑健さにはあまり恵まれず、故に、幼い頃の彼のそばには、付かず離れず、ふたりの幼馴染みがいた。成長し、ある程度の安定を得た青年が、己の力を身勝手に振るおうとはついぞ考えなかったのは、おそらくふたりの存在によるところが大きい。
そうして他者の助けになることをよしとし、育った後に、青年、迅深は――その人生、魂、すべてをひとつの賭けに投じた。とある神の気紛れに応えて、己の血統と系譜とをも巻き込んで、世界の安定を神に乞うた。
何代もの間、悲劇を積み上げて、そうして迅深は賭けに勝った。人の子にもまだ、神の慈悲を願う程度には価値があると、そう証したのだ。
ゆえに世界は、まだ決定的には、死んでいない。語られず、知られず、ただ影に埋没した物語の、その顛末はこれから明らかになるだろう。