gottaNi ver 1.1


 風流

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 青年はすこしばかり昔まで、すべてを諦めたふりをして日々をやり過ごしていた。自由はなく、未来もなく、さりとて絶望と言うほどの苦難もなく。ただただ、重く、息苦しい心を抱えて、どうせ何も叶いはしないと、何も変えられはしないと唱えて、満足にできない呼吸に苛立ちながら、生きていた。

 その閉塞した空気を揺るがしたのは、同じ風を扱い、しかして全くの異なる笑みで立っていた、とある人物。
 そして、同じように閉塞した気配をまといながらも、あがくことを諦めなかったいまひとり。

 ふたりとの出会いは、燻っていた祈りに風をおこした。自由を、未来を、望むことを夢見てもいいのかもしれないと。

 いちど火がつけば、あとは燃え広がるだけだった。己の心をも焼き焦がし、焦がれたものに手を伸ばす。諦めなければ良かったのだと悔恨に焼かれ、本当に望む未来があるのかと猜疑に苛まれ、しかしそれでも火は燃える。

 そうして、風流、と奇跡屋の名を得た青年は、いまは自らの風で火を灯している。未だ振り切れていない傷も、仕方のないものと諦めて、祈りを諦めることは、やめた。


UP:2023-06-13
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