gottaNi ver 1.1


 リドル・ノクターン

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 その猫はのんびりとした船旅を経てやって来た。特に何か目的があったわけではなく、たまたま乗せられた船がその島国に寄港し、猫を乗せた船員が下船したものだから、まあ付き合うか、と思ったのであった。
 なんの切っ掛けでその船員のもとを離れたのだったか、さて記憶はというとやや怪しい。大きなトラブルはなかったはずだが……次の船に猫のための席がなかったとか、その程度の話だったろうか。ともかく、何かしらがあり、その猫は下船したまま船には戻らなかったのだ。

 しばらくの間、猫は現地で親しくなったワイナリーで葡萄畑と酒蔵の番をつとめていた。懐かしい、猫がまだふるさとを離れることなど考えてもいなかった頃の、今は遠い日々に似た穏やかな毎日。

 特区、と呼ばれる不可思議な領域が島国にあることを知ったのは、その毎日が終わる時だった。新たに特区となったのはワイナリーのあった地区で、超常の異変が寄せては返すようになったそこは、ただびとが住むには波風がややきつかったのだ。
 猫、のちにリドル・ノクターンと名乗るようになる、黒い舶来の女は、その特区にまつわる小さな事件で、とある清掃会社と縁を結ぶ。怪異、妖異、あるいは都市伝説……そんなものを『片付け』る、というその組織に、リドルは身を置くことにした。

 リドル、精霊とも妖魔とも呼ばれた黒猫は、いま狩り場を都市に移して、新しい『ネズミ』を追い立てて微笑んでいるだろう。
 それなりに楽しく、新しい家と仲間を愛しながら。


UP:2023-01-13
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