<お題>
アルタイルの祝福をうけた旅人。尖晶石のヒレを持つ。眠れぬ夜をやり過ごすため、寂しがりやな魔女の嘘を求めて旅をする。アルデバランに縁の深い旅人が好き。
***
夜は苦手だと、その旅人は少しだけ笑った。
「祝福の星はアルタイル。四重奏の鷲さ。……彦星?」
呟いた別名には覚えがなかったようで、聞いた名前を口に乗せると、不思議そうに首を傾げる。
ちらり、と流れた髪の合間に覗くのは尖晶石。
「うん、その呼び方は知らないな。へえ、ベガとペアで? ああ……夏の大三角だからかな」
七夕の伝承を掻い摘まんで話すと、僅かに藍色を帯びた、宵闇に似た瞳が瞬いた。向けられた視線を察してか、旅人の指が目許を撫でる。その腕にもまた、尖晶石。
手の動きに、腕のヒレが揺れた。炊いた火を映して一層あかく煌めく。
「……何か付いているだろうか?」
旅路の間に土埃でもついたかと、指が目許から頬を幾度かなぞり、そのたびヒレの閃晶石がちらちらと輝いた。
目も閃晶石なのかと気になったのだ、と視線の意味を明かせば、ゆるく夜に遊んでいたヒレが動きを止める。
「うん? 目の色? ……いや、こっちは尖晶石ではないよ。確かに、ブルースピネルでこういう色を出すものもあるけれど」
虚を突かれた風情でそう答えてから、どちらかと言えば夜の色だと思っている、と続けた旅人は、ひとつ息を吐いた。
「眠れないから、夜は苦手なんだ」
だから、魔女を探していると。
探し物は、寂しがりやな魔女の嘘。
眠れぬ夜をやり過ごすために、それが必要なのだという。
「雲を掴むような話さ、まったく。……魔女というのは、どちらかと言えば剛毅なものだとは、聞き及ぶけどね。それでも『寂しがりや』が一人きりというほど珍しくはないだろう。何人の魔女が候補に数えられるやら、うんざりだよ」
あと何度、この夜をやりすごせばいいのかと、苦い笑み。
「夜も、眠ってしまえるのならば悪くないのだけどもね――ああ、今夜はアルデバランがよく見える」
遠く、何かを想う眼差しで呟いて。
こちらの眠りの邪魔になるから、と天幕を辞した旅人は、今日もどこかで、何とか夜を越すのだろう。
旅が終わるまで、その夜も続く。
***
週イチで始まり、もはや月イチですらなくなってきているけれど、いちおう続いている旅人さんです。