<お題>
ベテルギウスの祝福をうけた旅人。縞瑪瑙の尻尾を持つ。定めを変えるため、月の凍る音を求めて旅をする。天青石に縁の深い旅人とは幼馴染。
***
旅人は冬に向かってひた歩く。月さえ凍る夜を求めて。
「探しているのは月の凍る音。さあ…どこまで極地に踏み込めばいいものかねえ」
自身に宿った祝福をなぞってか、空にかざした指でベテルギウスの大三角をかたどり、囲みの中に月を捉えて笑った。
のんびりとした言葉とは裏腹に、投げ出された旅人の足の近くで、瑪瑙の尾が気ぜわしく揺れる。
薄く光を透かす紺碧と白、泡沫を思わせる、細かい曲線で形作られた縞模様が、細波のように砂を撫でた。
「いやあ? 邪魔だと思ったことはないね……ずっと生えてるものなわけだしさ。結構いろいろと役に立つものだよ」
たまに勝手に動くのが難だけれど、と繊細な泡立ちを指先がなぞる。聞けば、山岳地帯には尾持ちが多いのだそうだ。
ぱたり、ぱたりと、鉱物の見かけに反して軽い音。
「こっちのほうだと少ないのかな? 確かに、言われてみればあんまり見かけないかもねぇ」
変わらず月を仰ぎながらの言葉に、辿った旅路の長さを思う。
旅人が旅人になった時、そこに在った景色はどんなものだったのだろうか。
「ま、それでもまだ旅は続くわけだよ。――この旅路は、定められた道を変えるために、ってね」
音を立てて月が凍りつく瞬間。それが季節によってもたらされるものか、それとも土地か、それすらも今はまだ分かりはしない。それでも旅人は旅を続ける。焦がれてやまない結末のために。
ただ空だけがいつの夜も、すべての上で煌々と星を瞬かせていた。
「さて、お代はこんなところかなあ。あんまり変わった話でもなくて、悪いね」
夜を一片ほど分け合って、旅人は続く旅のため眠りに就く。
去り際に差し出されたのは、ひと欠片の碧い泡沫。爪ほどの薄い紺碧に、繊細な白の波が踊る。
「こないだ少し欠けちゃってね、これも何かの縁だろうし、よければどうぞ。なかなか良い具合の縞だと思わない?」
青さでは天青石に負けるけど、と誰かを映した呟きを零し。
今日もまた、旅人たちの夜は過ぎてゆく。