gottaNi ver 1.1


<お題>
ミラの祝福をうけた旅人。藍晶石の羽を持つ。世界を幸せで殺めるため、渡り鳥に伝わる呪文を求めて旅をする。緑柱石に縁の深い旅人と約束を交わしている。

***
 蒼い繊維を束ねたような藍晶石の羽が、夜の中にぼんやりと泳ぐ。燈火を受けて光るそれに目を留めると、旅人の口元がゆるい弧を描いた。
「なあに、気になるの?」
 渡り鳥の居所と引き換えなら触らせてあげる、と笑う旅人は、彼らに伝わる呪文を追っているという。

 言葉に合わせて翼が上下し、羽のかわりに、ちらりと蒼い破片を零した。
 舞い散る羽毛のような軽やかさで、問うまでもなく旅の目的が明かされる。

 渡り鳥に伝わる呪文を探して、そして。
「世界を、ねえ。幸せで満たして溢れさせて」

 そうして、満たして殺めるのだと、笑った。

 瞳の底に伺える気配は、旅人が抱く祝福の星を思わせる、ミラのような脈打つ輝き。
 果たして『それ』が比喩なのか、否か。比喩でないなら、世界は『そこ』で終わるのか。
 問いかけることなく守った沈黙に、返る答えは当然ない。

 たとえ望みが何であれ、辿る道がどうであれ――行き着く結末が、どこであっても。
 旅は等しく旅であり、物語の行く末を握るのは旅人だけだ。誰かが踏み入ることは、ない。

「いつか、探して、見つけて……ねえ? ちょっとその辺に飛んで行って、それで見つかったら、いいんだけどねえ」
 変わらず微笑む旅人の、その羽がどこまでも空を往けるのならば、渡り鳥を追うのも少しは楽だったのだろうか。
「一応、星の祝福は持ってるから、これでも飛べるんだけど、疲れるからねえ。あまり使うと擦り切れるし、普通の羽ほどよく生え変わるわけでもないし」
 旅同様に当てもなく広がる天。そのどこかで瞬いているのだろう星へと向けた瞳を瞬いて、呟く。
「でもねえ、約束があるから。旅を続けることはぜんぜん、何でもないよ」
 見ているのは、自分に与えられた祝福の星か、交わした約束の相手の星か――あるいは更に違う何かか。

 星々が隠れ始めた夜明けの空にまた目を向けて、挨拶がわりに慣れた言葉を受け取り、別れる。
「どこかで緑柱石の旅人に逢えたら、一晩でいいから泊めてあげてね?」
 私は旅人だから、面倒でもやっぱり旅路をいくよ、と。
 やはり軽やかに小さく笑んで、旅人はその歩みを再開していった。
***

なんだかんだ続いている旅です。


UP:2016-02-21
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