gottaNi ver 1.1


<お題>
アンタレスの祝福をうけた旅人。碧玉の角を持つ。絵を描き上げるため、人魚の歌声を求めて旅をする。天河石に縁の深い旅人と対立する。

***
「貴方は人魚の歌を聞いたことがある?」
 やや唐突に、その旅人は問うた。

 祝福はアンタレス、サソリの心臓。鈍い血の輝きにも似た、星を思わせる碧玉の角が、月光に映える。
 紅、朱、緋、橙。
 星雲のような水面のような、様々な赤が描く幽(かす)かな濃淡――瑪瑙ほど明らかではなく、紅玉髄ほど澄んでもいない。独特の趣を持ったその色を眺めながら、是とも否とも取れる答を返す。

 零された問いかけの続きを促せば、また今夜も、ただ一夜限りの物語が始まった。

 求めているものは、人魚の歌声。
「人魚は水の中でしか歌わないと聞いた。その歌は、水に棲むものにしか聴けないと」
 水から生まれ、水と共に生きるもの。自らと同じように、生命の精髄の中で暮らすものにしか与えられないという祝福。
 それを探し求め、旅を続けているのだという。

 旅人が宿す祝福はアンタレス。今宵の頭上にも宿って燃える星、空の領域にあるものだ。
「――けれど、私はそれを見つけなければならない」
 空の祝福と共にあり、そして地と共に旅をする身で、それでも水の祝福が要ると。
 そう呟いて、目を細めた。

 何のために? と今度はこちらから問いかけた。
 星々の瞬きを肴にしばし酒杯を重ねてから、そうっと一片(ひとひら)、言葉が落ちる。
「描き上げなければならない、絵があるから」

 その絵にどんな意味や価値があるのかは、余人の与り知るところではないのだろう。

 白み始めた地平線へと続く道に顔をしかめて、旅人はまた旅路を辿るため去っていった。
 この辺りの草原には嫌な色の花が咲くから、嫌いなのだという。天河石の名を冠するその花をひとつ摘み取って、今日の旅は始まった。

 あてのない旅でも、はてしない旅路でも。
 旅人が旅人である限り、旅は続く。
***

だらっと再開。たぶん不定期でだらだらっと続きます。


UP:2016-02-21
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