<お題>
スピカの祝福をうけた旅人。黒瑪瑙の痣を持つ。愛したものの未来を曲げるため、薔薇の秘密からできた鍵を求めて旅をする。カノープスに縁の深い旅人はライバル。
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今夜の客人はスピカの祝福をうけた旅人。探し物は、薔薇の秘密からできた鍵。
「曲げなくてはならない未来があってね、探しているんだ」
”under the rose” ―― 薔薇の下で交わされた言葉は秘密になる。それは暗黙の了解。
その秘密から生まれる鍵は、薔薇の色をしているのだろうか。
「さて、ね。そもそも、いわゆる鍵の、あの形をしているものかも分からないが」
それでも、旅を続けることに迷いはないのだ、と旅人は薄く笑みを浮かべた。
鍵は、愛したものの未来を曲げるために。
待つのはそれほどに耐えがたい光景なのだろうか。
「さて、曲げて幸福が約束されるなら、これほど楽な話はない、のだがね。悲劇が待ち構えているだけかもしれないな」
曲げた先に何が待つのか、旅人は知らない。
「吉と出るか凶と出るか、鬼が出るか蛇が出るか。……結末は神のみぞ、かな」
知る気もない、と、目を細める。
「――それでも? それでも。曲げずにはおれないから、その為に私は旅をする」
口元には笑み。目もまた穏やかに微笑んで――けれど、言葉だけが鋭く、夜気にその穂先を埋(うず)める。
星明かりだけが支配する夜空で、ちら、と銀の星がまたたいた。
銀色はスピカ。乙女が抱いた麦の穂先と言われる、旅人が祝福をうけた星。
その輝きをしばし眺めて、旅人が一口、酒杯をあおる。
「真珠星と言われてから、スピカが真珠にしか見えなくなってね」
懐かしむように、そっと夜へ言葉が落ちた。
こちらに視線を戻し、肩をすくめてみせる。カノープスの祝福を持つ旅人が、そんな話をしていったそうだ。
「あいつも探し物が、と言っていたかな。面倒だから、かち合うことがなければいいのだけどね」
星はスピカ、蒼白に煌めく穂先。石は黒瑪瑙、深淵を映した深みの闇。
桜の下には屍(しかばね)が、薔薇の下には? 秘め事(ひめごと)が。
「そして旅人は鍵を求める。運命さえもねじ伏せるため、薔薇の秘密から生まれる鍵を、ね」
囁くように小声で唄い、旅人は微笑む。愛おしそうに、黒瑪瑙の痣に手を添えて。
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だらっと再開。週イチは待って、ちょっと待って。