アルとイグにコードを添えて。まだ何もなかった日々のささやかな幸福。
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柔らかな下草の上、淡い炎色の鳥がひとり、すやすやと丸くなっている。
「イグ」
「…………」
「……イグ」
重ねて呼ぶ声にも、応えはない。こてりと首をかしげて、呼び声の主はしばし思案する。
「……遼(はる)?」
「なぁに?」
特別な、ただひとりだけに聞かせる名を呼べば、鳥はぱちりと目を開いた。
「雨が来るから、起きたほうがいい。長雨になるよ」
ふわふわとした羽毛に指を触れ、そっと撫ぜて言葉をかければ、甘えるように身を擦り寄せて鳥が笑う。
「アルが言うなら確かだね。……コードはどうしたの?」
「雨が来るから、寝ているよ」
「……私もまだ眠い」
「うん」
笑って、アル――水に縁深い庭の一柱――は、まだ丸くなっている同胞をそっと抱え上げた。すっぽりと腕におさまる大きさの温もりに、ひとつ軽い口付けを落とす。
「それなら、ここで寝ておいで。……コードのところで、ゆっくりしようか」
「いいね、アルも寝ちゃえばいいよ。……雨が止むまで、みんなでのんびりしていよう」
鳥――伝承生物のひとつとしての姿をした、いま一柱の超越種――は、くすくすと笑声を漏らして、また目を閉じた。
やがて、ぱたり、ぱたりと、雨粒が天地をつないで落ち始めた。
雨のヴェールは、ゆるやかに微睡む三柱を包んで、静かに庭を潤してゆく。
……ただ、何もない幸福なだけの日々のこと。