32.見えない絆を解きほぐし、もっともっとと強く結わき直す
がんじがらめの愛は 幸せだった
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一目見て、焦がれた。永遠に見ていたいと望んだ。
魔族かと見紛うほどに見事な、艶やかな黒髪。陽光を受ければ、瞳と同じ深い茶色になる。
窓から差し込む光の中、その深い色をまとって笑う姿が愛しかった。
漆黒に近いその色は間違って排撃されるには充分で、整った顔立ちや優美な物腰は狙われるだけの価値がある。
だから、決して家からは出ないようにと言い含めた。
幸い資産には余裕があり、監視も警護も、世話に何の不足もない環境が用意できる。
本人も危険に怯えていたから、それで永遠は完成した筈だった。
母親によく似た、美しい容姿と人目を惹く天性の気配。
歳が経つと、誰もが手に入れたいと望むようになった。
母親によく似た、陰の中では漆黒にしか見えない色彩。
日が射すと、そこに人ならざる力を示す色が加わった。
彼らは皆、いつ誰に奪われてもおかしくないほどの価値を持っていた。
僅かにでも気を抜けば、この永遠はきっと壊れてしまうだろう。
家族の情や血の繋がりなどでは保てない。そんな見えもしない絆などでは弱すぎる。
何度も何度も、永遠がまだある事を確かめた。
壊れない事を確かめようと力を加えて、そうして、永遠は壊れてしまった。
使う者のいなくなった部屋はひどく空虚で、寒々しい。
ただ失いたくないという一心で縛りつけ、けれど気付けば何もかもが失くなっている。
斜陽の中、深い茶色の瞳を深い憂いで満たし、笑みの消えた口が言葉をつづった。
これ以上、あの子たちをここに閉じ込めておくのは、誰にとっても不幸な事。
もう、忘れてしまいましょう。
探す事など諦めて。
手に入れたいなどとは、望まないで。
こんな愛情の形は、これで終わりに。
歪んでいる事は、分かっていた。
それでも、幸せだったのだ。
永遠を信じてしまえるほどに。
見えない絆を解きほぐし、もっともっとと強く結わき直す。
がんじがらめの愛は、幸せだった。
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オールドローズ父。色々とあかん感じの人。