30.朽ちていく花の匂いをまきちらせながら
あの時あなたを殺せばよかった
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花が散る。散らなければ価値がないのだと、何かを嘲るような呟きを思い出す。
何故、散る事のない存在を求めたのだろうか。
何故、散る事を選んで笑ったのだろうか。
手に入った筈の永遠を惜しげもなく手放して、散った花は朽ち果てる。
「貴方が居なければ価値は無い」と、とうに自由になったつもりでいた存在が呟いた。
憎しみが、忘却を許さず、その心を繋ぎとめる。
そんな想いなど彼方に捨て置いてしまえれば良いのに、かなわない。
他の何かと同列になるくらいなら、怨嗟を向けられるほうが楽とでも言うのだろうか。
痛みが晴れる事はないとしても、構いはしない。
「貴方が居たから意味があった」と、とうに忘れたと思っていた言葉が耳に届く。
風に舞い落ちた花の香りが日増しに濃くなり、やがて朽ちた匂いが混ざり始める。
振り返っても手に入る事はない、過ぎてしまった未来がまた追憶の中で明滅する。
この手に残った永劫がひどく重く、厭わしく、愛しくなる。
いつもなら、そう感じた事さえ気付かない内に忘れてしまえるのに、今はできない。
茫漠とした時間だけが何もかもを遠ざけてくれると信じて、息を潜める。
共に永遠を求めていた筈なのに、何故、自分だけが残ったのだろう。
望みの理由に気付いてしまった今、永遠などあっても仕方がないと深く思う。
絶望の芽を植え、渇望を教え、そして永遠を与えた。
意図してはいなかったにしても、それは余りに精緻で老獪な機構で、止める術はない。
花が終焉へと還っていく間でさえ淡々と、進む事も戻る事もなく続く。
それでも、美しいと感じるのは何故だろうか。
已む事のない時間にはもう痛みしか覚えない筈なのに、目が離せない。
また一陣の風が花を散らし、この感傷を抉る。
別の気配を重ねて忘れる事など到底できず、鮮やかに覚えたまま生きる事など耐えられない。
どちらへも踏み切れないままで言葉が零れる。
いっそ、この帰結を予感した時に、全ての可能性を閉ざしていれば良かったのだ。
いつか永遠も終わるのだろうか。
朽ちていく花の匂いをまきちらせながら。
あの時、あなたを殺せばよかった。
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んーっと、祝詞さん。永久機関の持ち主にして閟誕の『神』で、閟誕以上に屈折した感情のヒト。