29.布団を手繰って枕に頬を押し付けて、考える
明日が来るかではなく、未来は輝いているのかと
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この力が、何かの助けになれるなら。
鵺陂の名前を厭った事はない。
守りの役目を担うだけの力があると、認めてもらえた事は嬉しかった。
受け継いだ名前に恥じない自分でいようと思っていた。
重いとも、辛いとも思わなかったけれど、きっとどこかで無理をしていた。
自分でさえあればいいと言われて、鵺陂でなくてもいいんだと知って、嬉しかった。
この親友たちを守ると思ったら、前よりもずっと、鵺陂の名前が誇らしくなった。
きっと皆、こうやって何かを大切にして、幸せでいてほしいと願って、強くなろうとするんだろう。
それなら強くありたいと、心から願う。
大切なものを守れるように。誰かを助けられるように。
鵺陂かヤサカか、どちらかの名前を選ばなければならなくなって、後悔だけはしたくないと思った。
それがどんな結果になっても、選んだ名前だけは誇ろうと決める。
守りたいものをいくつも思い浮かべて、失くしたくないものを探して、答を出した。
きっと、鵺陂の名前を背負える誰かは他にもいるから。
ヤサカは、自分しかいない。
この名前を呼んでくれる親友を、失くしたくない。
もし二人を助けられるなら、この力はそのために使いたい。
ヤサカの名前が自分を助けてくれたように、ヤサカの力が親友の助けになれるなら。
深く深く眠る。
傷が痛んだとしても、寝ていればあまり関係ない。
どんな目で見られようと、どう扱われようと、心は痛まなかった。
大切なものが無事ならそれで充分だから、置かれた状況が辛いとも思わなかった。
守られるだけで何も出来なかったと、自責を続けるオウシに、聞こえないよう小さく謝る。
マキとの約束も破ってしまった。
側にはいられないマキの分も、オウシを守れればそれで良かったのに。
そっと目を開けて、側を離れようとしない親友が眠った事を確かめると、また目を閉じて祈る。
せめて、これ以上は追い詰めないように、この痛みが隠し通せる事を。
いつか、傷が癒える事を。
布団を手繰って枕に頬を押し付けて、考える。
明日が来るかではなく、未来は輝いているのかと。
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ヤサカ。