戦いの末、人間と幻想の獣がその国を分かつことになってから、幾星霜。一定の平和を築くことに成功した人間たちは、ついに幻想たちの領域への旅を決意した……途切れた絆を、繋ぎ直すために。
で、いざ向かってみたら道中が過酷すぎて調査隊がごっそり減ったりなんだりして、なんとか到達したらこんな感じのぐだぐだした毎日が待っていたのだ。
***
「なに? エサがいる??」
「あのー、持ってきた兵糧…っと、ああ何ていうんですかね、そのー、持ち運べる日持ちのするエサ?がですね、なくなっちゃったんですよ…」
「ふむ。して?」
「で、ですね…はやくエサを見つけないと飢えてしまうんで、ああー、なんだ?狩り場?餌場?そういうところの利用を許可していただけませんかねと」
「我らに狩猟の縄張りはないゆえ、好きにするがよい。狩られすぎては困るが…そうさな、ハバムートはここ最近よく出るゆえ、いくらか食うてもよかろ」
「それ死ぬやつー!! 」
「ぬ?」
「倒せないし!食べられないし!死ぬ!死んでしまう!!」
「ぬ??」
「なんと。ぬしらはあれを食えぬのか」
「致死毒ですよ!食べたら死ぬやつですよ!!」
「ううむ、育ち盛りの子らが巣立ったゆえ、数には余裕があるのだが…食えぬのではいかようにもならぬな」
「あ!なんかいま図らずもここ数年の激甚獣害について理由が分かりましたね!?やった!やってない!こっちの問題が何も解決してない!」
「ではヒトという種はなにを食うて生きておるのだ?」
「ええと、主には穀物と肉ですね、穀物は米や麦という細かい実をたくさんつける植物、肉は馬や豚を育てて食べます」
「ほう……その豚や馬というのはバハムートとどうちがうのだ?」
「……ええっと、もう何が同じか説明に困るくらいには違いますね」
「もうやだ……なんでここ食べると死ぬ生物しかいないの? 動植物みんなでヒトを殺しにきてるの? いやあれか逆か、こんなんしかないからヒトが今まで版図を広げられなくて、空白地帯になってるのか……。おなかすいた、もうやだかえる、だめだ帰り道で死ぬやつだ多分。詰んだ。もう駄目だ。人生!おわた!っひゃー!!おわりだー!!」
「おや、なにやら楽しそうだな?」
「楽しくねーよヤケっぱちですよ!!」
「焼け…? 何か焼けているか??」
「違うそうじゃない」
「?? やはりヒトというのはよく分からぬものだの」
「飢えて死にそうなんすよー……」
「……しかし、ぬしは我らの領域に至るまで、なんといったか?兵糧であったか?それを食うておったのであろう?」
「あっはー、もう尽きましたけどね!いえす!」
「う、うむ? であらば、まだ腹は満たされておるものではないのか?」
「……あのー」
「ぬ?」
「つかぬ事をお伺いしますが、1週間って『まだ』の範疇ですかね?」
「……1週間というのは、ぬしが来てから今までの時間か?」
「……だいたい、そんなかんじの、じかんなんですけど」
「……もしや、ぬしら、あの月が満ちるまで腹が持たぬのか……?」
「あと半月も!もたねーですよ!だめだ死ぬこれやっぱり死ぬ!!」
「ヒトよ」
「……ふふふ…塩だ…昨日も今日も明日も塩と水だ……」
「ヒトよ。小さきものよ」
「ふへへへへ、我々は水と塩でできているのです……肉など不要……なわけねーだろちくしょう死ぬ、死ぬ。いや、もう死んでいるのかもしれない……」
「ぬん」
「ふべっ!?」
「うむ、起きたの」
「いたい死ぬいやいっそ死にたいかもしれないもうやだ」
「ぬし、まだ寝ておるのか?」
「やめて下さい踏まないでつぶれる」
「うむ、起きたの」
「……寝てたわけではないのですが……ええと、本日は……ああ、皆さんと我々が戦った後のお話をするんでしたっけ……」
「それは既に聞いたぞ。うむ、我はな、ぬしにこれを届けに来たのだ」
「……それは……」
「我らが約定を結びこの地に去ってのち、いかにヒトが争いを取り除いてきたかを聞かせてもろうたでな。長とも話し合うて、返礼の品を渡すことに」
「に、肉だー!!」
「ひょあっ!?」
「はっ!? 駄目です肉は駄目です、ここで食べられるのは水と塩だけ……」
「う、うむ。その話も聞いたでな、我らのうちの古きものに、ぬしらの食物について尋ねてきたのだ。これはウロネズミというてな、木のウロにおるネズミでぬしらも食えるらし」
「ウロネズミー!!!」
「ひゃうあ!?」
「知ってます地方料理で食べました、ありがとうございます、ありがとうございます!ありがとうございます!!」
「ちょ、お、まて、落ち着けヒトの、足、足にまとわりつくな踏んでしまう!」