23.あなたは「さよなら」を告げた
私はそれを嘲笑った。 傲慢な愛しか渡せない
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結局、音には成らなかった言の葉が、其の口から僅か零れ落ちた。
私は唯(ただ)常の様に笑み、其の別離を突き放した。縦(たと)え、此れが最後に為ろうと、構いはしないと。
眼(まなこ)を閉ざし、思い返す。
此の身を産み落としたのが何者であろうと、拘泥する謂れは無く、拘泥する積もりも無かった。
見(まみ)える事も無い以上、関わりの無い話と忘れてさえ居た物が、俄かに騒ぎ立てられ始めたのは何時だったろうか。
程無く数多の者が膝を折り始めたが、疾うに絶えた物として聞く名と、其の名でしか求められない己とには、何(いず)れにも冷めた嘲りしか感じず、望む通りの振る舞いで利用し合えば良い、と断じた。
此の名を、呼ぶ者が居るとは思わなかった。
其の名を口にして、彼の鬼は己が手を示す。此れが綜鬼皇を殺めた手だと、笑んで告げた。
憎め、とでも言うのかと問えば、矜持に於いて、選択の道を拓いただけの事と応えて、又笑う。
隠す積もりも無かったのだろう。
其の手が途絶えさせたものと、其の血が紡ぎ出した者と、其の矜持が明かす物と、凡ては其の誇りに因るだけの話。
情が有ったか否かを問う声も、矜持に凡てを委ねるならば意味は無い。
天秤に掛けた末、矜持を取る以上、捨てた情の有無を尋ねる理由等、互いに有りはしなかった。
貴鬼たるを失わない事こそ、因るべき唯一の物に他ならず、寄る為に其れを手放す事は誰も出来はしない。
言葉を交わす事すらせずに、寄ろうとする思いを葬って笑む。互いが、其の矜持を貫き切れさえすれば充分だった。
其の指を伸ばすには、互いは余りに誇りが似通い、然れど余りにも遠く。
一つとて言葉を零さぬ儘、其の立ち姿を見据え、焼き付ける様に深く瞼を閉ざした。
寸前の束の間、彼の女の唇が僅かに動く。……縦(たと)え、此の先一度とて二度目が訪れずとも構いはしないと。
違わず其れを読み取って、固(もと)より傍近く在ろう等とは思いもしないと、声を紡ぐ。
貴女は「さよなら」を告げた。
私は其れを嘲笑った。
傲慢な愛しか、渡せない。