22.歪んだ時計 新しい参考書 有名講師の授業 規則的生活
いつか終わる日は来るよと夢も見ずに いいえ、いつも見ていた
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粘ついた赤が手について、洗っても洗っても落ちない夢を、見た。
目を覚まして確かめようとした時間は、時計の文字盤がどうしても歪んで見えて、判らない。
何回も目をこすって、それから顔を洗って、汚れるはずのない手を、洗う。
それから着替えて、朝食を食べて、そうやっていつも通りの一日が、始まる。
真新しい参考書と、とても有名な人だという講師を前に、半日。
すっかり馴染んでしまった、手の中の重みと反動を相手に、もう半日。
あとはただ、食べて寝る。
時折、かなり長くなった髪を束ねて、こんな時にしか用意されない服を着て、出かける。
慣れきってしまった重みを手に、何も感じなくなった反動を、他人に向ける。
全部が終わったら、戻ってきて着替えて、ほんの少しだけ独りになって、休む。
毎日はただ、繰り返しだった。
その場所には希望も絶望もなく、どこまでも同じ。
何かを願う事なんてなかったし、何かを夢見る事だってない。
「大丈夫」
呟いて、眠る。
この場所には絶望なんてないし、何かを夢見る必要だってない。
少しだけ息の詰まる繰り返しだって、いつか終わるから、大丈夫。
居場所はここにあるし、ここ以外の居場所なんて、ない。
「行き先があるなんて、思わなかった」
終わらせる事も出来るなんて、考えなかった。
終わって欲しかったなんて、解らなかった。
終わらせたいと思っているなんて、知らなかった。
「終わるまで、終わらないと思ってた」
ずっと夢見てたなんて、そんな事、気付かなかった。
歪んだ時計、新しい参考書、有名講師の授業。規則的生活。
いつか終わる日は来るよと夢も見ずに……いいえ、いつも、見ていた。