21.言わなければ良かった 泣かなければ良かった 知らなければ良かった
でももう遅い 何もかも遅すぎた
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力なく服を掴んだ手が、ちいさく震えた。
「 ごめん 。」
力なく口を開いた彼は、うつむいて動かない。
整わない呼吸だけが、まだ彼が消えてはいない証拠のようで、否定して宥めてやりたいのに動けない。
「もっと巧く 立ち回れたら、 きっと、傷つけなかった。 追い詰めずに済んだ。 」
「……もう、いい」
絞り出した声は強張ってかすれていて、伝えたい事のひと欠片さえ、言えてはいない気がする。
約束、したのだ。
助けが必要になったら、力になると。
助けて欲しい時は、支えてくれると。
それぞれ助け合って、いつまでも『親友』でいようと。
物理的な距離の近さでなく、精神的な距離の近さで。
約束したのに。
ただ、わずかでも良いから力になりたかった。
ただ、無事でいてくれさえすれば十分だった。
ただ、独りではないと信じられれば良かった。
誰もが、自分より相手を心配していて、その分だけ自分自身の傷には疎く。
……それが、何よりも相手を傷つける事には、気付かなかった。
助けになりたいたい一心での選択が、支えになりたい相手を打ちのめす。
出来るなら、力になりたかった。
庇われるだけでなく、庇う事も出来るようになりたかったのだ。
だから、守られている間に何が起きていたか知って、それに見合うだけ強くあろうとしたのに。
負わせた傷はあまりに重く、いっそ庇われないほうが良かったと思うほどで。
どうして自分は何も知らずに、何も出来ずにいたのだろうかと、嘆く事しかできなかった。
その言葉が、嘆きが、どれだけ彼を責め苛むのか、気付く事さえできなかった。
追い詰める事しか出来ないなら、いっそ何もしないほうがいい。
言わなければ良かった。
泣かなければ良かった。
知らなければ良かった。
でももう遅い。何もかも、遅すぎた。