gottaNi ver 1.1


19.つまり私は知らなかったし知ろうともしなかった
  「関係ナイ」 適切な関係

***

 張り詰めた空気の中、退屈を隠して、思う。くだらない。
「ずっと、混血だとばかり……」
「どういう事なんだ」
「どうして……黙っていたの? 信用できなかったから? ねぇ、どうして?」
「…………」

 馬鹿らしい糾弾だけに耳を貸すのにも飽きて、壁の向こうへ思惟を伸ばした。彼は、もういつもの様に眠ってしまったのだろうか。
 普段の印象よりずっと、本当の所は強いのだろうとは思っていたけれど、あそこまでとは思わなかった。
 この状況で、どうやったら他人に全てを委ねてしまえるのだろう。
 彼らはお互いを『親友』だと言うけれど、それでも他人である事は変わらない。ここでの対応ひとつで、自分の居場所が無くなってしまうかも知れないという時に、いつも通り笑って頷けるというのは恐ろしい事だ。
 きっと、関係のない相手には分からない何かが、そうも強く在れる様、彼を支えているのだろう。
 そして、それが何か知っているから、彼らは『親友』なのだろう。
 ……けれどそれは、彼らだけが知っていれば良い事だ。

 一向に収まらない弾劾に意識を戻して、今度は口に出して、思う。
「くだらない」
 本当に、くだらない。
「……くだらない?」
「どういう意味?」
 つい前までの勢いそのまま、今度はこちらに矛先が向く。分かり易すぎて笑えてくるね。
「くだらない。意味なんてひとつしかないと思うのだけれど。だって、くだらないよ」
 もう誤魔化すのも面倒臭くて、退屈を隠さず言い放った。
「彼が混血ではなかった。だから?」
「だから、って……」
「だから? だから何? 誰か、彼が混血だという話を聞いた事があった?」
「……ない、けど……」
「なら、騙された訳でもなし、騒ぐ必要なんてないと思うのだけれど。大体、ここにいる誰が混血で誰がそうでないか、全員はっきりしてなんかいないのに、今更どうしてこんな話で揉めているのだか、解らないよ」
 それから、彼の『親友』を真っ直ぐに見て、笑ってみせる。
「例えば、私が混血なのか違うのか、参加する時に問題視された? 他の相手が参加する時は?」
「する筈がない。お前だって役員なんだから知ってんだろ?」
「だな。少なくとも、私がここに出入りする様になってからは、ここが種族や出身に拘っているなんて話は一度も耳にしてない。それどころか、逆に釘をさされたくらいだもの」
 言葉を切って、くだらない断罪を進め様としていた面々を一望。
「……多かれ少なかれ、こんな所に来るからには、誰もが触れられたくない事を抱えている。決して、何も問題を起こしていない相手の事情を嗅ぎまわる様な真似はしない。この注意は、私だけがされたもの?」
 この沈黙なんか待たなくても、それがここの不文律だって事は知っているけれど。
「くだらないよ。彼が混血ではなくても、ここに混血ではない誰かがいても、少なくとも私には関係ない」
「…………」
「反論はなし? じゃあ、もう集会は終わりでいいよね」
 うんざりした気分で宣言して、返事は聞かずに席を立つ。
 どこの誰がここにいるかなんて、気にはされたくないし気にしたいとも思わない。何も知らない、それで良い。

 つまり私は知らなかったし、知ろうともしなかった。

 『関係ナイ』

 適切な関係。


UP:2018-08-31
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