gottaNi ver 1.1


18.怖い考えだった
  でも否定する力も持っていなかった

***

「オレは、連中も、連中がやった事も、死ぬまで忘れない」
 低く、呪詛のような、強い言葉が耳朶を打つ。
 ……彼が、こうも強く何かを嫌悪する様子など、想像した事もなかった。
 驚きながら、言葉を投げかける。
「でも。でも、もう終わってしまった事でしょう? いつまでも引きずって、これからに悪い影響が出たら……」
「終わってない。少なくとも、オレにとっては、何一つ終わってなんざいない」

 助けられるばかりで、ただ一度も守れはしなかった。
 その痛みがある限り、きっと、あの場所で起きた何もかも、何一つ、済んだ事などにはできない。
 憎悪や嫌悪が、乗り越えて捨てていかなければいけないものだなんてのは、理想だ。

 感覚を閉ざして、周りにある苦痛から意識を逸らして、傷口の痛みだとか、理不尽な扱いへの恨みだとか、いくらでもあった筈の辛さを抱え込んだまま、ただ眠る。
 眠ってしまったくらいだから、きっと大した事はない。眠っていたら、忘れてしまった。……眠ってしまえば、何も気にならない。
 笑いながら繰り返される、その言葉をどうやったら信じ込める?
 目を閉じて、耳を塞いで、何もかもを拒絶して、眠る以外に逃げ道がなかっただけじゃないのか?

 見たくないなら、見なくていい。
 思い出したくないなら、ずっと目を逸らしていればいい。
 いっそ忘れてしまえるなら、何もかも忘れてしまってくれればいい。
 ただ、決して無かった事にはしない。
 彼が忘れても、オレが全て覚えておく。

「たとえ連中が終わったと言い張っても、何があったか忘れても、オレは忘れない。終わらせない」
 彼が告げずに飲み込んだ、その痛みが存在しないとは言わせない。
 きっと、その眠りが覚める時まで、終わったなんて事は言わない。

 低く、宣誓のような、強い言葉が耳朶を打つ。

 怖い考えだった。
 ……でも、否定する力も持っていなかった。


UP:2018-08-31
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