18.怖い考えだった
でも否定する力も持っていなかった
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「オレは、連中も、連中がやった事も、死ぬまで忘れない」
低く、呪詛のような、強い言葉が耳朶を打つ。
……彼が、こうも強く何かを嫌悪する様子など、想像した事もなかった。
驚きながら、言葉を投げかける。
「でも。でも、もう終わってしまった事でしょう? いつまでも引きずって、これからに悪い影響が出たら……」
「終わってない。少なくとも、オレにとっては、何一つ終わってなんざいない」
助けられるばかりで、ただ一度も守れはしなかった。
その痛みがある限り、きっと、あの場所で起きた何もかも、何一つ、済んだ事などにはできない。
憎悪や嫌悪が、乗り越えて捨てていかなければいけないものだなんてのは、理想だ。
感覚を閉ざして、周りにある苦痛から意識を逸らして、傷口の痛みだとか、理不尽な扱いへの恨みだとか、いくらでもあった筈の辛さを抱え込んだまま、ただ眠る。
眠ってしまったくらいだから、きっと大した事はない。眠っていたら、忘れてしまった。……眠ってしまえば、何も気にならない。
笑いながら繰り返される、その言葉をどうやったら信じ込める?
目を閉じて、耳を塞いで、何もかもを拒絶して、眠る以外に逃げ道がなかっただけじゃないのか?
見たくないなら、見なくていい。
思い出したくないなら、ずっと目を逸らしていればいい。
いっそ忘れてしまえるなら、何もかも忘れてしまってくれればいい。
ただ、決して無かった事にはしない。
彼が忘れても、オレが全て覚えておく。
「たとえ連中が終わったと言い張っても、何があったか忘れても、オレは忘れない。終わらせない」
彼が告げずに飲み込んだ、その痛みが存在しないとは言わせない。
きっと、その眠りが覚める時まで、終わったなんて事は言わない。
低く、宣誓のような、強い言葉が耳朶を打つ。
怖い考えだった。
……でも、否定する力も持っていなかった。