15.真っ直ぐな姿勢が好きで、スーツが好きで、黒目が好きで
気付けば全部、他愛もないもの ねぇ貴方をください
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『目を逸らさないな』というのが、第一印象。
誰に対しても、しっかり目を合わせて物を言う。
あまり上には可愛がられないだろうと思えば、意外とそつなく媚も売る。
「本音だけで生きていけるほど、甘くも単純でもないでしょう?」と自嘲する顔が、どこか悪戯を楽しむような輝きを秘めていて、驚かされた。
「ある程度までは、必要悪だと思う。でもこれが正しいとは、思えない」
珍しく泣きそうに愚痴をこぼして、珍しく他人の判断を当てにしてきたから、つい「失策さえも認めて糧にする貴方が気に入ってる。好きなようにすればいい」と背を押してしまった。
言い過ぎたと思ったけれどもう遅い。
驚いたように見張った目。一拍置いて見せた笑顔。ああ気付かれた。
諦めて盛大にため息をついたら「煽ったんだから責任は等分」と指を突きつけられる。
仰せのままに、いとしい人。
芝居がかった仕草で手を取って、そっと決意。
こうなったら仕方ない。この先ずっと、その側で同じ方向を見る事にしましょう。
「……諦めが良いですね」
「まぁここまで外堀固められて、反抗できるとは思わないでしょう」
「というよりは、このまま事が運ぶよう望んでいるのでは?」
「はっは、そちらのお方は流石に鋭いですね。上には言わないで下さいよ?」
「今の所、貴方を潰しても利益はないので心配なく」
「あぁ、多分この先もそちらの不利になるような真似はしませんよ。うちの大将がその子を気に入ってますから」
「……」
「成る程。ではこの話はそれで?」
「ええ。彼の身柄はそちらに一任します。上も承認しましたので、そういう事でお願いします」
「では。……おいで、帰るよ」
「……失礼、します」
窓から眼下の2人を見送って、そのまま慣れた番号を押す。あの時うっかり背を押してしまって、そうしたらここまでやり遂げてしまった、あっぱれな最愛の人にご報告をしなくては。
「うん、ひとまず終わったよ。行ってきたら?」
去っていく人影を追いかける、見慣れたスーツ姿を確認して、ため息。そういう意味での「特別」でないと知っていても、妬けるね。
手を差し伸べる事を躊躇わない、その目はとても好きだけど。
意識を切り替えようと、彼女が戻ってきたら言うべき事を心の中で呟いて、大将のご帰還を待つ。
真っ直ぐな姿勢が好きで、スーツが好きで、黒目が好きで、気付けば全部、他愛もないもの。
ねぇ、貴方をください?
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対策課のご夫婦。旦那はこの通りのナイス馬鹿です。