14.小銃と腕時計、MDそれからパソコン開いた?
さあ、ゲームの始まりです。
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最近では滅多に見かけなくなった、アナログな懐中時計の蓋を閉める。ぱちり、と小気味のいい音がした。
胸ポケットで留めたリモコンをいじって、エンドレスに流していたMDを止める。
小さく息をついてイヤホンを外すと、ずっと圧迫されていた耳が少し痛んだ。
「時間?」
「うん。ちょっと行って来るわ、あとよろしく」
ひらひらと手を振って告げると、慣れた様子の笑顔が見送ってくれる。
いつものリュックを左肩にひっかけて、机の上に置いてあった本体からMDを取り出し、剥き出しのそれをポケットに突っ込んで部屋を出た。
廊下を歩きながら、リュックの中のMDプレイヤーを引っ張り出してイヤホンをつける。胸ポケットのMDをセット。
さっきまで聞いていた歌を口ずさみながら、再生ボタンを押すと、今度はクラシックのようなピアノ曲が耳に響いた。
数分するとピアノのメロディはノイズに変わり、すぐに造られた声が流れ出す。
ヨウコソ、エムディー、ビィメン、エ。エイメンノ、ウタト、サキホドノ、キョク、ノ、キョウツウテンガ、エンブレム、デス。
「いや、A面とかB面とか、テープじゃないから」
思わず、流行歌を中断して、無機質なアナウンスへの突っ込みを呟き、プレイヤー本体の裏側に刻印された『MADE IN UFO(not USA).』を指で弾く。
通常とは違う録音方式に対応した特別製のプレイヤーは、デコピンにも動じずに再生を続けた。
イツモノトオリ、レイノ、ポイント、カラ、スタートノヨテイ、デス。イジョウ。ナオ、コノアトノ、ビィメン、ハ、サキホドノキョクノ、サイセイ、ト、ナリマス。
何秒間かのノイズが終わり、ピアノのメロディが再開される。
「……」
ひたすら続く旋律を確認してから、ぴ、と演奏を停止させ、別のMDと取り替えた。少し古い、CMにも使われていた有名な歌が始まる。
門を抜けて立ち止まり、時計を見ると時刻は頃合。
道の端に寄ってしばらく待っていると、小走りな足音が近づいてきて声をかけられた。
「どもー。持ってきたよ」
「thank」
渡されたのは、ビリヤードのキューを入れるような、持ち手の付いた箱。
「んじゃ、いつも通りこれ頼む」
もらった箱を少しだけ開けて中を改め、時計を預ける。
腕時計とノートパソコンを取り出した。時計を手首に巻き、スロットにカードをセット。
デジタル表示の現在時刻を確認して、開いたパソコンを立ち上げる。
パスワード入力。ダウンロード。新規ウィンドウ。
表示されている、文字列を飾りつけた幾つかの画像のひとつをクリックして、独り言。
「やっぱサティか……」
切り替わった画面には『welcome』のご挨拶といつもの口上。
『小銃と腕時計、MDそれからパソコン開いた?
さあ、ゲームの始まりです。』
***
因みにUFOは「United Farraginous Outlaws」か「”Unfettered Faker” is Our name」か。