gottaNi ver 1.1


13.切なさと悲しみが混同した気持ちに 触れたことがある
  昔、一人の女を泣かしたことがある 許されなくていいよ

***

 それは遠く、何ものにも代え難き記憶。

 永すぎる日々に倦みつつある風情の、主と仰ぐ存在に終焉を捧げようという願い。自分たちは、己自身を殺めるに等しいそれを欲した。
 共に膝を折り、恭順を誓っていた者達には理解されないだろうが、たとえ考え直す機会が巡ってきたとしても、滅びを拒む道など在りはしない。

 かつての同胞を屠り、凡てを与えた相手を討った。
 この瞬間くらいは泣くだろうかと、隣に佇む者に目をやると、対として定められた女はただ静かに笑む。
 間違いなく、これが希った道だからと、ただ笑んだ。
 己の欠片を混ぜた自分たちを対として定め、創り上げた女もまた、同じように笑んだ事を思い出す。

 笑みを見て、思った。
 ああ、泣いたのだろう、と。

 最も古い配下であるという以上に、その一部を身の内に持つという点で、自分たちは特異な関係にあった。
 魂を分けた者として、恭順だけでは足りず、納得しなかった。
 初めに創られた者として、初めに従った者として、存在の欠片から生じた者として、おそらくは駒に徹しきる事などないように出来ていた。
 その手が決して象れない祈りを象る為の布石として、この手は在った。
 道を違えなければ叶わないものの為に創り出され、それでいながら共に在り続けるよう望まれた。

 矛盾は即ち迷い。

 側近く仕える者として最後に相対し、見た笑みを想う。
 終わりを渇望し、だが今を捨てられずに足掻く、これからを見透かした静かな笑み。

 迷い、選ぶことが出来なかったのは、自分も同じだ。

 静かな笑みが叶える事を望んだ時、ならば自分は共に在る事を叶えようと決めた。
 存在を委ねていた相手を滅ぼせるよう、主に代わる支えとして呪を創り上げる際、共に誓いを述べた同胞の手だけは離さずに在る事を定めとする。

 瞑目した闇に、共に在れと望みながら迷う者と、共に在れと願いながら決めた者、酷似したふたつの笑みが浮かぶ。
 選んだ帰結を否定はしない。取る事とした手を離しはしない。
 望んで犯した大逆を、赦されたいとは考えない。
 何ものにも代え難き記憶として、焼き付けた。

 この存在が潰える時まで、自分たちは共に在るだろう。

 切なさと悲しみが混同した気持ちに触れたことがある。
 昔、一人の女を泣かせたことがある。赦されなくていい。

***
 氷の古い追想。


UP:2018-08-21
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