13.切なさと悲しみが混同した気持ちに 触れたことがある
昔、一人の女を泣かしたことがある 許されなくていいよ
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それは遠く、何ものにも代え難き記憶。
永すぎる日々に倦みつつある風情の、主と仰ぐ存在に終焉を捧げようという願い。自分たちは、己自身を殺めるに等しいそれを欲した。
共に膝を折り、恭順を誓っていた者達には理解されないだろうが、たとえ考え直す機会が巡ってきたとしても、滅びを拒む道など在りはしない。
かつての同胞を屠り、凡てを与えた相手を討った。
この瞬間くらいは泣くだろうかと、隣に佇む者に目をやると、対として定められた女はただ静かに笑む。
間違いなく、これが希った道だからと、ただ笑んだ。
己の欠片を混ぜた自分たちを対として定め、創り上げた女もまた、同じように笑んだ事を思い出す。
笑みを見て、思った。
ああ、泣いたのだろう、と。
最も古い配下であるという以上に、その一部を身の内に持つという点で、自分たちは特異な関係にあった。
魂を分けた者として、恭順だけでは足りず、納得しなかった。
初めに創られた者として、初めに従った者として、存在の欠片から生じた者として、おそらくは駒に徹しきる事などないように出来ていた。
その手が決して象れない祈りを象る為の布石として、この手は在った。
道を違えなければ叶わないものの為に創り出され、それでいながら共に在り続けるよう望まれた。
矛盾は即ち迷い。
側近く仕える者として最後に相対し、見た笑みを想う。
終わりを渇望し、だが今を捨てられずに足掻く、これからを見透かした静かな笑み。
迷い、選ぶことが出来なかったのは、自分も同じだ。
静かな笑みが叶える事を望んだ時、ならば自分は共に在る事を叶えようと決めた。
存在を委ねていた相手を滅ぼせるよう、主に代わる支えとして呪を創り上げる際、共に誓いを述べた同胞の手だけは離さずに在る事を定めとする。
瞑目した闇に、共に在れと望みながら迷う者と、共に在れと願いながら決めた者、酷似したふたつの笑みが浮かぶ。
選んだ帰結を否定はしない。取る事とした手を離しはしない。
望んで犯した大逆を、赦されたいとは考えない。
何ものにも代え難き記憶として、焼き付けた。
この存在が潰える時まで、自分たちは共に在るだろう。
切なさと悲しみが混同した気持ちに触れたことがある。
昔、一人の女を泣かせたことがある。赦されなくていい。
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氷の古い追想。