12.例えば人を愛しその人のために尽くすという事
唇が動く 「私ニハ デキナイ」
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「討ちましょう。あのお方を。恐らく我らはその為の布石」
「そして、互いに自由を」
その言葉は鳴弦。その決定は嚆矢。
確かめず語らず、他が為とも誰が為とも言わず、ただ黙したままに幕は引かれた。
力ある限りは同胞を見放さない。
命続くうちは誓いの環を裏切らない。
何があろうと悔恨は零さない。
どうなろうと逃げはしない。
……この円環が在る間は、離れない。
この手によってだけは死なない。
自らを創った、己そのものとも言える存在を滅する為、誓いの呪は紡がれた。
共に在る事を、道を全うする事を、時を続かせる事を、望んだのは誰か。誰の願いか。
他が為と言うなら、主の為に。
我が為と言うなら、己の為に。
誰が為と言うなら、答は無い。
等しく唯一の者を主と仰ぎ、等しくその存在を慕っていた。
だが容易くその連帯は途切れて消え、結ばれた誓いは総てを滅ぼす。
その永遠に死をと望まれていれば、おそらくその帰結はなかっただろう。
この永遠に死をと望まれていても、おそらくこの決定はなかっただろう。
いずれにしろ、彼の存在の望みではあまりにも明白に足りなかった。
永遠に幕を引く為だった、主に替わる約定は、滅びと共に新たな永遠を得た。
その永遠を抱き、大逆を叫ぶ追憶の残骸を払い、幕を引いて、笑う。
例えばひとを愛し、そのひとのために尽くす、という事。
唇が動く。
「私には、できないがね」
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風の小さなひとりごと。