gottaNi ver 1.1


12.例えば人を愛しその人のために尽くすという事
  唇が動く 「私ニハ デキナイ」

***

「討ちましょう。あのお方を。恐らく我らはその為の布石」
「そして、互いに自由を」

 その言葉は鳴弦。その決定は嚆矢。
 確かめず語らず、他が為とも誰が為とも言わず、ただ黙したままに幕は引かれた。

 力ある限りは同胞を見放さない。
 命続くうちは誓いの環を裏切らない。
 何があろうと悔恨は零さない。
 どうなろうと逃げはしない。
 ……この円環が在る間は、離れない。
 この手によってだけは死なない。

 自らを創った、己そのものとも言える存在を滅する為、誓いの呪は紡がれた。

 共に在る事を、道を全うする事を、時を続かせる事を、望んだのは誰か。誰の願いか。

 他が為と言うなら、主の為に。
 我が為と言うなら、己の為に。

 誰が為と言うなら、答は無い。

 等しく唯一の者を主と仰ぎ、等しくその存在を慕っていた。
 だが容易くその連帯は途切れて消え、結ばれた誓いは総てを滅ぼす。

 その永遠に死をと望まれていれば、おそらくその帰結はなかっただろう。
 この永遠に死をと望まれていても、おそらくこの決定はなかっただろう。

 いずれにしろ、彼の存在の望みではあまりにも明白に足りなかった。

 永遠に幕を引く為だった、主に替わる約定は、滅びと共に新たな永遠を得た。
 その永遠を抱き、大逆を叫ぶ追憶の残骸を払い、幕を引いて、笑う。

 例えばひとを愛し、そのひとのために尽くす、という事。

 唇が動く。

「私には、できないがね」

***
 風の小さなひとりごと。


UP:2018-08-21
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