gottaNi ver 1.1


「あれぇ? 閟誕に方向性がおかしいとか言われるのは予想外なんだけど」
 応対に出た自律人形の背中を見送りつつ、絡繰屋は首を傾げる。
 肉が食べれば片付くのも、ネジが食べられないのも、間違いなく真理だと思うのだが、何故だろう。

「おーい、絡繰屋さーん、来い来い、出てこーい」
「うん?」
 再度の呼び出し。
「ひたーん、なにごとー?」
「不審物でスー」
 また首を傾げて声をかけると、全く不審そうじゃない様子で返事が戻ってきた。
「……不審物?」

「なになに、プラスチック爆弾?」
「そんな明らかな不審物はさすがに届けないぞー」
 搬入口まで出向いてみると、馴染みの運送屋が抗議してくる。
「雷汞堂(らいこうどう)が輸送を引き受けたのに不審物?」
「不審物でスね」
「……その箱、開封されてない?」
「開封しましたね」
「……開けてみたら不審物だったってことでいいのかな」
「左様でス」
 覗いてみれば、箱の中には緩衝材で厳重に保持された品物が、ひとつ。
 磁器製のボディパーツに、絹らしき質感の服。触れるかどうかという位置で腕をのばして向かい合うのは、男女一対の小ぶりな人形だった。据え付けられた台座はそこそこ精緻な彫り込みの木箱、ガラス張りの蓋の下には――オルゴールの本体が。

「うわー、ほんとだ、不審物だ」
「でしょう」
「え、これ不審物なのかー?」
「不審物だよ、これ」
「不審物でスね」
「マジかー」
 雷汞堂が弱った様子で言葉を零し、書類を取り出して確認しながら、続ける。
「フツーに遺品整理の譲渡品だったんだけどなー」

 呟きに、店の主従が動きを止めた。

「……ちょっと待とうか雷汞堂」
「どした?」
「うん、あれ、いま遺品って言った?」
「言ったぞー」
「譲渡も?」
「言ったなー」

 のんびりとした雷汞堂の言葉をゆっくりと理解して、それから、店主は、開封を担当したとおぼしき従業員に目を向けた。

「……うわー、どうしようか閟誕、すごい不審物だよこれ」
「言ったでしょうが。馬鹿と違いまスか、貴方」


UP:2018-08-16
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