gottaNi ver 1.1


「んー」
 思案しながら呟いて、まず店主はもろもろを確認する。

「まず、問題は動作不良と……謎の子供? それが出なくなればいい?」
「ええ……そうですね、その二つをお願いしたい」
「うちの細かい条件、聞いてきました?」
「は? ……いえ、その……何か特別な条件が?」
「いくつか。まず価格はやってみないと判断つかない――まぁこれは奇協なら大体そうだと思いますけど」
「……はい」
 それとなく反応を見ながら、ぴっと指を立てて、続ける。
「ここからが本番で。とりあえず……依頼品の所有権、手放してもらえます?」

「……は?」

 あぁ、そこも聞いてない、と。
 完全に予想外、といった顔でこっちを見る様子に苦笑して、絡繰屋は説明を足した。
「理由はいくつかあって……ま、まず第一には信用問題ですね。一度こっちに所有を移して、それだけやっても任せられるっていうなら受ける、そういう感じで。持ち逃げとか破損を心配するなら、お互いにいい取引にはならないだろうから、話はなし」
「…………」
「あとは、対人関係のトラブル対策……かな? これが結構ねえ、扱うものがアンティークだったりするんで、他所がいきなり所有権を主張して割ってきたりって話があって」
「――それは」
「そっちのトラブルもまとめて片付けるんで、モノの権利がうちにないとやりにくい。ああ、最終的な価格はそのあたりの対応も込みです。一度うちに無償譲渡で所有権を渡して、全部きれいに片付いた後、請求価格に納得できれば買い戻してもらう、って形式」

 一応は見積もりも出せるのだが、途中のトラブル次第でいくらでもブレるからあまり意味はない。
 そもそも『奇跡』なんてものを金銭で切り売りする稼業、真っ当な会計を期待する方がどうかしていると思って欲しいくらいである。

「どうします?」
「ええと……その、解決できそうなんでしょうか」
「んー、まぁ、実際のものを見ないと何とも言えないけど……まぁそうですね、今の話だけなら十中八九どうにかなると思いますよ。ちょっとお値段の方は判断しかねますけど」
「…………」

 聞く限り、絡繰屋として食いつくほど変わった品でもなさそうだ。相手次第でいいだろうと、店主は決断を丸投げする。
 決心がつかないのか、客はしばらく困惑した様子で悩んだ末、申し訳なさげに口を開いた。
「その……一度、帰ってから考えさせていただいても?」
「まあ、そうですね、タイミング次第で引き受けられない場合もあるんで、駄目になるかもしれないですけど。そこのあたり承知してもらえるなら、構いませんよ」
「ではあの……そのように」
「了解です。じゃあ、その時はまた来てください。次は問題ものも一緒に」
「……分かりました、持ってきます」

***

「うーん、どうしようかなあ」
 返答を保留した客が退出してから、店主が残っていた茶をすすりつつ、呟いた。

「今のお客さんでスか?」
「そう。まぁ、このまま来ないならもう関係ないんだけど……あー、でも確認しとくかな」
「あァ、香籠にですか」
 閟誕は記憶と照合し、絡繰屋の考えに見当をつける。その名前が出たとき、店主は何やら引っかかりを覚えている様子だった。
 うなずいて、彼は何やら物騒な理由をのんびり告げる。
「ちょっと気になるよねえ、あれ。ああいう面倒臭い手合い、香籠なら真っ先に潰してそうなんだけど」
「面倒臭い、でスか」
「面倒臭いよ。煮え切らない、話し切らない、出し切らないでさ。うん、やっぱ訊いておこうか」
「左様ですか。では連絡を取っておきまス」
「あ、うん、よろしく。絡繰屋さんはちょっと下調べしておく」
「はい」
 そのまま工房へと戻っていく背中へ声をかけ、出した飲み物を片付けてから、従業員は話題の相手に連絡。
 相手が絡繰屋の壊滅的食習慣を気にしていた、と記憶していた情報から、ついでに干し肉の報告もしておいた。高確率で対応がされそうな様子で何よりである。
 これで、無駄に干し肉を貯蔵する事態の再発は避けられるだろう。

 後日、予測通り懇々と食料の購入方法についてレクチャーされた模様であった。問題解決と思われる。

「ええ……なんで香籠に話がいってるの」
「我ながら完璧に妥当な判断だったと思われまスが。一面に肉の干された倉庫の清掃と干し肉の梱包は二度と不要であると判断しましたが」
「あ、うん、それはごめん、買いすぎたみたい。香籠に凄く哀れなものを見る目で説教されてきた」

 今日も今日とて、粛々と干し肉を消費しながら、彼は端末を叩いている。
「あ、安い」
「肉ならまだありまス」
「うん、食料品はそんなに同じもの一気に買わないように言われた。いま見てるのネジとかだから」
「無駄に大量発注しても仕分けは協力しかねまスが」
「しないし。肉なら食べればいいけど、ネジ食べる訳にもいかないでしょ。余らせたら処理しようがないよ」
 論理としては正当、だろうか。しかし。
「馬鹿と違いまスか貴方」
「え、どこが」
「発想の方向が。問題を認識していないなら――」
「おーい、絡繰屋さーん」
 続けようとした発言は、搬入口からの呼び出しに遮られた。


UP:2018-08-16
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