絡繰屋の求めに応じて、客は戸惑いながらも、来店にいたった理由を語りだす。
「私はその、趣味で骨董の類を集めております。特に、少し仕掛けのしてある細工物が好きでして……普通の手順では開かない箱ですとか」
「あぁ、ありますねーそういうの。開けると動きだすイースターエッグとか」
「まさに。そういった品を主に収集しております。それで……先ごろ、少し変わったオルゴールを入手しまして」
手に入れたのは、音楽に合わせて、本体の上に据え付けられた人形が踊る、という絡繰仕立てのオルゴール。
インテリアボードの上にメインで置くような、そこそこ大きさのあるもので、その分だけ音や動きが繊細だという話だった。
「もちろん、購入する前に動きは確認しました。その時は問題ないように思えて、それで購入したのですが」
買って、いざ動かそうとしてみたが、どうもうまく動かない。
人形は動くが音が鳴らない、音は鳴るが人形が動かない。あるいは、途中でぷつりと動きが止まる――そんな事が何度も起きる。
逆に、誰も触れていない時に動きだす、という事もあった。
「そんな事が続いて、その、少しばかり気味の悪い思いなどもしておりました」
「あー、でもちょくちょくありますよ、振動で誤動作したりは」
「それが、絶対にゼンマイが切れているはずなのに、といった事もあり……そのうえ、その、家人が――あのオルゴールを処分してくれと言い出したのです。幽霊を見た、などと口走って……」
「幽霊?」
「何やら……青白い子供が、その……『出る』、と」
オルゴールに据え付けられていたのは、男女のペアになった人形がゆっくり踊るように動く、というような仕掛け。
曲も、どこのものかは知れないが、童謡のような雰囲気でもないし、子供を連想するようなものとは思えない。
「なぜ、急に『子供の幽霊』などと言い出すのやら、特に思い当たる節もなく……さすがに、どうもおかしいと悩み始めていたところ、更に妙な出来事が重なったのが、つい先日です」
にわかに薄ら寒くなってきたところで、事情を何も知らないはずの客人が、奇妙な事を訊いてきた。
「……ふぅん? それ、なるべく聞いた通りに再現してもらえます?」
まばたきを一度、あまり気のない様子でいた絡繰屋が、ふと真面目な声音で先をうながす。
驚いた顔でまばたきを返して、男はそれから、失礼ともとれる自分の反応を誤魔化すように、慌てて話を再開した。
「は、はい。その、遠方から商談のついでに、と顔見せにきてくれた友人で、そのオルゴールについては話をする機会はありませんでした。それが急に……」
来訪からしばらく、近況報告などが一通り落ち着いたころだ。洗面所へ向かったはずの友人は、首をひねりながら応接間へと戻ってきた。
「いきなり、『この家に今、子供はいるのか?』と尋ねてきたのです」
いわく。廊下を歩いているときに、ふと窓から庭を見たら、まだ小さな子供がひとりでいるのを見つけた、という。
よその子が遊び半分で入り込んだのかもしれない。それなら、親が探しているだろうから、誰か人をつけて、保護するなり家に帰すなりしたほうがいいのでは――と、親切心からの報告に、家主である男はぎょっとした。
もちろん、家に子供はいないし、念のため探したが、外から誰かが迷い込んだようなこともなかった。
「その話から、もうこれは普通ではないと、購入元にそれとなく話を聞こうと思いました。何度かやり取りしまして、初めはやはり偶然だろう、誤作動や思い込み、勘違いが重なっているのではと言われましたが――最終的には、こちらを紹介されまして、本日、思い切ってご相談に」
最悪、問題のオルゴールを処分するのもやぶさかではないが、ただ手放すだけでいいのか、正しい対応がどういうものかも、分からない。
「ここで対応してもらえないとなれば、他に頼る当てもなく――どうでしょう、何とかならないものでしょうか」