店舗のバックヤードに設置してあるボタンに反応して、呼び出しを示すランプがぴこぴこと点滅する。
工房でそれを受け取って、絡繰屋は昼寝を諦めた。
「あー、見えてる見えてる。うん、だから連打しないで閟誕。壊れる壊れる」
容赦なく押して離してまた押して、と酷使されているらしい呼び出し装置が心配になる。残念ながら音声通話の機能は無いので、呟いたところで伝わらないのだが。
アラート音も鳴るようにしたのだが、ちょっとどころではない鬱陶しさだったので、それは鳴って早々にさくっと切った。
「あ、打電」
今度は点滅に長短のリズムがついて、点灯、消灯、点滅、と組み合わさってきた。信号の意味はおおむね『早く来い』『来い』『とりあえず来い』。
「うん、見てる、見えてるから、だから駄目だって閟誕、それ連打できる仕様になってないから。壊れる壊れる」
とりあえず装置の保全のため、逆呼び出し装置のほうから『撃ち方やめ』を送ってみる。伝われこの危機感。
***
呼び出しを全力で連打した効果か、予測より早く姿を見せた店主が、にこりと笑う。
「どうも、お待たせしました。絡繰屋、店主です」
「あ、どうも。その……よろしく、お願いいたします」
「そんなに畏まらなくていいですよ、とりあえず話を聞くだけで、引き受けるかはその後の話だし」
いや多分それ疑われてまスよ貴方、若すぎるけど大丈夫かとか思われてまスよ。
カウンターの向かいに椅子を出して、従業員は、飲み物を置きながら心中でツッコミを呟いた。
絡繰屋店主、自称27歳。ただしここ数年は同じ歳を使いまわしているらしい上、外見は明らかに27もない若さである。設定の不審さを自覚しているのか、自覚していないのか――まぁ自分が気にする事でもない、と閟誕は突っ込まないでいる。
「では、何かあれば呼んでください」
「うん、よろしく」
邪魔にならないよう距離を取り、閟誕は納品スケジュールの確認に戻ることにした。現状、緊急の予定はない。絡繰屋がこの件を受けたとしても、スケジュールの調整は不要だろうか。
「……で、ざっと確認ですけど。『キキョウ』をお尋ねで、うちってことは、絡繰――機械絡みの『曰くつき』で間違いない?」
「は、はい。その通りで……あ、紹介は『9月のカゴメ』で通じると聞いて」
「香籠?」
出た名前に、絡繰屋の意表を突かれた声。
基本、事務処理でしか動かない香籠が、奇跡屋として名を出したことにか、よその店へ紹介が続くような形で処理した事にか。イレギュラーと思われる反応を、人形はその人間離れした処理能力でもって、前後のやり取りごと記憶しておく。
念のため店主へ視線を向けるが、この場で追及する事項ではないらしい。特に反応らしい反応もなく、話はすぐ次に遷移した。
「ふうん――了解、じゃあ簡単なルールはもう聞いてきてる?」
「はい」
「それじゃ説明は飛ばしますね。とりあえず言える範囲で状況を」
「……はい」