gottaNi ver 1.1


<お題>
ヒアデスの祝福をうけた旅人。藍晶石の羽を持つ。裁いた罪科をあがなうため、精霊たちの祈りを求めて旅をする。方解石に縁の深い旅人とは主従。

***
 幾本もの細い板を束ね、重ね、形作った濃藍の翼は、夕闇の青へ、その境界線を溶かしてゆく。
 迫る夜が藍色を包み、すべて隠してしまった頃、祝福の星を仰ぎ見ていた旅人は、星への祈りを終えて、そっと天幕を訪れた。
 差し出した杯に丁寧な返礼を告げ、満たされていた青い薬草酒をひとくち含むと、小さく吐息を零して語り始める。
「お噂は、かねがね。助かりました。なにぶん、一人旅というものには慣れておらず……思いのほか夜が深いので、驚いています。ここで一夜をしのげることになったのは僥倖でした」

 旅人が享ける祝福はヒアデス、雄々しき牛のもとに集う星団から。宿した藍晶石の翼は、どこか奥ゆかしさを宿して、旅人の腰あたりに寄り添っている。

「……え? ああ、はい。あまり旅慣れてはいないのです。普段は連れ立って行動する事が多く……どこかで方解石の旅人とお会いになりましたら、よしなにお願いします」
 裁定を生業とするものとして、己の下してきた決断の真偽を諮るために旅立ったという。
「試練の旅、と呼ばれることもありますが……我々は、試されるためではなく、むしろ、救われるためにある仕組みだと、言い伝えています」
 裁定者たちに伝えられてきた、あがないへの道。はたして何を購う――あるいは贖う、のかと訊けば、痛みをこらえたような笑み。
「断罪が、過ちではなかったか。真に罪であったのか。……誰かが、この身を、決断を、裁いてくれればと、思わずにはいられないのですよ」

 杯を両手で包むように握り、地に視線を落として、旅人は言葉を綴った。
「もし、あの時の判断が過ちであったら。裁いた彼らに本当に罪が有ったのか。……どれほど真摯に、真剣にと努めても、疑念は尽きない。裁いてきたものの真偽を誰かに裁いて欲しい。そう願うもののための、あがないです」
 正しく在ろうとすればするほど、確信は揺らぎ、迷いは自己の外に確証を求める。
 その、逃れられない懊悩によって、断罪者は旅人となった。かつて裁いた罪たち、幾度も下してきた決断の当否を精霊に問い、重ねた罪科をあがなうために。

 裁いたことによって裁かれる……それは、救いであるのだろう。
 過ちは糺され、正される。己ではない何かが正しさを証してくれるのだと、そう保証がされればいくらかは、背負う重石は軽くなる。

 広がる天空、広がる星々。その光に己の裁いてきたものたちを重ねるのか、また夜空を仰いで旅人は佇む。

「旅がいつ、どう終わるのか、あがないとはどのようなものなのか。それは伝えられてはいません。ただ、辿り着けば、分かるとだけ」

 旅はしばらく続くだろう。
 告げて、天幕を辞していった旅人の、その道行きを照らし導くのも、また、天に数多と散る星々だ。

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前回の超速更新から一転、安定の遅延祭りです……。
プレアデスからのヒアデス、はちょっと面白い偶然ですね。


UP:2017-04-07
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