9.見えねば去り、見えれば狩れ
惜しむらくは長からぬ命
***
何かを守る為には力が要る、と誰かが言った。
力だけでは何も守れない、と別の誰かが言う。
ひとは、何を守る為に戦うのだろう?
自分に力があれば、と泣きながら眠るひとを見た。
こんな力が何になるのか、と嘆き叫ぶひとも見た。
手を伸ばす事。その手を取る事。立ち上がる事。歩き出す事。
誰かを想う事。誰かに思われる事。幸せを願う事。祈る事。
共に在ろうとする事。独りでも在り続ける事。泣く事。笑う事。
……どんな事にも力が必要で、けれど力だけではどんな事も出来なくて。
「ふむ、じゃあ組織でもつくろうか。その名前で、何かとんでもなく馬鹿な集まりを。
そうしたら、目眩ましにはなるんじゃないか。君が名乗っても組織の名前だと思われるだろうから。」
独りで戦おうと決めて笑ったら、そう笑われた。
ああ、まだ想われているのだと知って、少し泣いた。
互いの幸せと無事を心の中だけで強く祈って、繋がっていた手を離して、戦いが終わる事を願って、別れた。
守りたいものは、同じだった筈なのにと、誰かが呟いた。
何故、と呼ぶ声が聞こえたから、見えないのかと、問いかける。返らなかった答が変わってしまった関係を証明するようで、見えないならもう去ってしまったほうがいいと、囁いた。
見えていなかったものに気付いて、見てしまった以上、もう共には在れないと笑う。
そしてこれから、つい昨日までの同胞を標的として暮らしていくのだと自分に告げる。
守る為の力の陰で、力のない者が傷ついて、力を振るう者にはその姿が見えていない。
それならもう、いっそ力などないほうがいい。
使う事はないと思っていた、自分自身さえ見逃してはくれない力を、握り締めた。
強すぎる力はたぶん、この身を滅ぼすだろう。それでも構わない。泣きそうになって、祈るように手を組んで固く目を閉じる。
どうか、これが守る為の力となるように。
見えねば去り、見えれば狩れ。
惜しむらくは、長からぬ命。