7.貫けるなら貫いて
あなたの正義は誰よりも気持ちいい
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その瞬間の意味を誰よりも知っているくせに、誰よりも疎そうに見える顔で笑った。まるで何も知らないように。
どんな犠牲を払っても、誓いは決して揺るがない。
もしも必要だと言うのなら、笑って「正義」だと宣してみせる。
欺瞞も罪悪も隠し通して。
痛みなど何処にも見えないよう。
さしたる感慨もなくただ笑って、何事もない顔で言葉を紡いだ。この瞬間が意味するものなど、知らないとでも言うように。
長く長く伸びるcardinalの先にある扉は、凡ての痛みさえ招きいれ飲み込むのだろうか。
今日の誓いを刻み入れた剣(つるぎ)は、いつか折れてしまうのだろうか。
幾度となく呼ばれることになる筈の名は、途切れる時が来ればただ忘れられるのだろうか。
何もかもを誰よりも知っているというのに、何故こうも素知らぬ顔で笑えるのだろう。
その白は血の色。もとはただ、直ぐに新しいものを用意する為、色を染める手間を省いていたらしい。
今は、流される命の色を見せ付ける為に、多少の手間をかけて真白(ましろ)を用意するという。
その禁色は黒に近い赤。冗談曰く、着替えずとも会談に臨めるよう、あらかじめ染める事にしたらしい。
今は、流れ出す命の色を目立たせない為、会談へは着替えていくものの赤色(せきしょく)は変わらない。
翻る白は纏う玄によく映える。
肩に巻いて背へ流したその布が、飾りではないと知る者はどれほどだろうか。
足首の上まで丈のある上着が、戦場を考えて染められたと知っている者はいるのだろうか。
身に付けるあらゆるものに血の気配を潜ませ、王は立つ。
定められた色の意味を知り、その色を受け入れる意味を知り、受け入れる立場の意味をも知る。
自分は屠る為の刃だと、笑う。
泣きたくなるほど焦がれ、畏れるのは、貴方の在り方もまた「正しさ」だと認めているせい。
目を細めた姿が、眩しそうにも痛ましそうにも、あるいは笑っているようにも見えた。
出来る限り幸福にという、願いに違いはない筈なのに、どうした所で誰かとぶつからずには済まないのだろう。
語られる正義はいくつもあって、衝突する正しさもまた多い。
目を逸らす事だけはせずにいようと決めて、思う。
貫けるなら貫いて。
貴方の正義は誰よりも気持ちいい。