ここで止まれるようなら兄っぴょじゃあねぇんだよなあ~!!
***
それは、約束された破滅。
「――止まれ!」
郊外の街道を進んでいたふたつの馬車へ、武装した騎兵の一団が走り寄り、囲む。
先頭の御者が慌てて馬の足を止め、狼狽えた様子で声を上げようとし……言葉を発するより先に、切り伏せられた。
その気配を車内から察した老爺は、ひとり、ひっそりと心中で苦く呟く。
始まって、しまった、と。
「……賊?」
「私が」
麗しいかんばせを訝しげに変え、言葉をこぼした貴婦人を制するように声をかけると、扉に手を伸ばす。
「……陛下、帝妃様を、お願いいたします」
様子を確認しに車外へ出た老爺を追うように、青年がひとりその後ろに降り立った。
ほぼ間を置かずに、咎める声で貴婦人もまた馬車から降りる。
「――危険です!」
「……そうでしょうね」
青年の手が、動いた。
と、と微かな音で一歩を刻んだかれらの主へと、乱れぬ動作で場に立っていたすべての者が膝をつく。
今しがた己の手で意識を奪った、可愛い義理の妹の、その額へひとつ軽い口付けを落とし、青年、ツイリは一度つと目を閉ざした。
そうして、開いた瞳に揺るぎない戦意を宿し……捧げられた刃先を、振るう。
「遅滞なく、確実に、鬼見城帝の許へ」
妃の、愛する相手の、このような無残な傷を見て、それを仕方ないと言うような人物ではない。この咎はあの王を間違いなく激怒させ、またこんな偽証など通じはしないだろう。
その先に己の命がどうなるか、察せないほど愚かではない。
この先に進めば、幾つもの命が失われる。
だがもう、誰もが、何もが、後戻りはできないのだ。
……ひとつ、覚悟を決めた色の承諾が返された。
「――万事、我らが王の仰せのままに」
遠ざかる馬車を見送り、天泣の剣にして刃たるものは、ひとつ地を踏む。
さあ、征こう。
戦争を、蹂躙を、破却を。
旧き『天泣』を焼き払い、新たな芽吹きを迎える国へ、灰を撒くために。